2021年上期に読んだ26冊の技術書の中から、おすすめを紹介します。ぜひ本探しにお役立てください。 今回は細かい技術書を多めに読んだので、読んで良かった本は少なめです。
下半期に読んでよかった本BEST3
プログラマの数学
数学ガールで有名な結城浩の数学本。
アルゴリズムを理解するための数式に特化した本。解説がわかりやすいのも良いところだが、一番良いのは初めと最後のショートトークが面白い所。
個人的に好きなのは「GNU は GNU is not UNIXの略です。そしてGNU is not UNIXのGNUはGNU is not UNIXの略です。これが再帰です」という話と、「ドミノは、次のドミノが倒れるように並べる必要があります。そして始めのドミノを倒す必要があります。これが帰納法です。」という話。
数学を直感的に理解するという分野において結城浩に勝る人物はいないと思う。非常に良い本。
ダブルハーベスト-勝ち続ける仕組みをつくるAI時代の戦略デザイン-
尾原和啓の最新作。いつも通り「AIをどう使うか」について書かれた本。一言で言ってしまうと今までと同じに思えるが、内容は大きく異なる。
まず、本書で繰り返し言われるのが「自社でAIを育てることに意味がある」という旨の言葉である。AI用のプラットフォーム(TensorFlowなど)は多くあるが、AIはいくら待っても絶対に100%の正解率にはならない。しかも、いくら進歩したプラットフォームを使っても、それは他社との差別化にはならない。
そこで本書で勧められているのが、「自社なりのチューニング」である。例えば数字しか認識する必要がないなら、英語のオー(O)とゼロ(0)の認識は不要である。さらにAIに良質な自社のデータを食わせてあげれば、自社に最適化されたAIが作れる。AIは子供のように人間が育てることで、少しずつ成長していくのだ。
タイトルの「ダブルハーベスト」はさらにその先を行く。ダブルハーベストとは、2つの収穫を意味する。例えば、レコメンド用AIを育て上げることで、個人データが溜まり、信用スコアとしてもマネタイズできる。車の追突
防止AIはチリデータと組み合わせればカーナビに活用できる。
AIは、育てる段階からいかにビジネスに展開するかを考えるところまで来ている。もはや難解な最新テクノロジーではなく、ツールとして上手く付き合っていくのが当たり前となっているのである。
ITビジネスの原理
尾原和啓の最初の本。グーグルや楽天など10社以上を渡り歩いてきた経歴に裏付けされた「なぜITは稼げるのか」という解説。
今となっては当たり前だが、「情報が安いところから高いところに売る」だとか「ニーズをマッチングさせる」といったことが解説されている。
マッチングというとクラウドソーシングがわかりやすいが、特に面白いのが「承認欲求のマッチング」である。発信ハードルの低いプラットフォームを作るだけで、ユーザーの発信でビジネスが成り立つというのはIT特有の考え方かもしれない。
また、「いかに人手をかけないか」というのもITビジネスの根幹にあり、グーグルの参照システムについても解説されている。
あとは、インターネットのスケールメリットである。規模が増えても大して費用はかからない上に、プラットフォームが大きいだけで一つの価値になる。WTA(Winnner Takes All)の考え方はこの時点で当たり前になっていることがわかる。
その他読んだ本リスト
VR原論
VRに関して多分最初に出版された本を書き直した本。
内容としては、VR度合いを示すためのモデルだとか、ハプティックインタフェース関連の研究とか多岐にわたる。体系化というよりは、研究を詰め込んだ本といったほうがいいかも。原論だからといって入門書ではないので注意したほうがいい。
個人的には、VRにおいてはレイテンシーとフレームレートが最も重要であるという内容が一番ためになった。
「100円ショップ」のガジェットを分解してみる!-安さに隠された秘密を解明!
そのタイトル通りの本。
基本的に中華製品なので、いかに安く製品を作っているかのヒミツを探るという内容である。これを読んで電子工作がうまくなるかはわからないが、モチベーションを高めるためには良い本だと思う。
中華製品なので、バッテリーは怪しいものがあったりするが、それ以外はかなりまともである。安いということは、そのためのノウハウがある。日本の設計部署も見習うことが多いと思う。
プロトタイプシティ
深センのテクノロジー事情をもとに、今後の世の中について解説した本。
中国では、STEM教育の成果なのか起業思考の人が多いからなのかわからないが、プログラマーが非常に多い。ただしここで重要なのが、質は大したことなくて量がとんでもなく多いことである。
アリババやテンセントは、そんな大量のプログラマー達とうまく共存している。アリペイとウィチャットペイのアプリ内アプリストアを開くことで、簡単にアプリを開発できるようにしている。
さらに重要なのが「安全性」だ。室の低いアプリで問題が起こらないように、決済や個人情報は専用のAPIを使うことを義務付けている。こうすることで「安全な開発空間」をつくり、多くのアプリの開発の支えをしている。
アンドロイド端末も、現在はほとんどのメーカーがOSのラッパーを作って自由度を下げている。今の大企業に求められるのは、適度に制限して個人開発者やユーザーが安全に動き回れる空間を作ってあげることなのかもしれない。
ミライをつくろう!
オキュラスを日本に持ち込んだことで有名なGOROmanの自伝のような本。
本来は日本で発売する予定でなかったオキュラスクエストを何とかして日本に持ってこようとする戦いが非常に面白い。
オキュラスは最近の企業なので、経営と技術の担当が別れている。経営はシリアルアントレプレナーが務めて、技術はVRを広めたいけど経営はめんどくさいと思っているエンジニアが担当しているイメージである。
GOROmanはエンジニアのほうにクエストの日本発売を何とかこぎつけたが、経営者にはうまく伝わっておらず、さらにはフェイスブックの買収で頓挫した。日本は家庭用ゲームが強すぎてゲーミングPC市場が小さいため、VRと相性が悪いからである。
しかし、結局なんとかクエストの日本発売に達する。やはり日本市場は予想以上の盛り上がりで、ソフトも日本発売が多数ある。現在は日本を意識した販売もされるくらいには大きな市場となっている。
まだまだVR市場は狭いが、GOMOmanとしては既にVRの地盤はできているとのこと。イヤホンで耳をハックし、スマホ画面で目をハックしている。これらがメガネにでもなるだけで良いので、VRが一気に広がる見込みは十分ある。
VR<仮想現実>ビジネス成功の法則
VRインパクト-知らないではすまされないバーチャルリアリティの凄い世界-
VRコンテンツ最前線-事例でわかる費用規模・制作工程・スタッフ構成・制作ノウハウ-
VRが変えるこれからの仕事図鑑
VR系の本たち。仕事図鑑は未来予想で、他は事例紹介。VRはまだアトラクション止まりかなーという印象。技術的な内容はほぼないので、おすすめはしない。
プロトタイプシティ-深【セン】と世界的イノベーション-
「メイカーズのエコシステム」の作者の続編。主に深センの状況を解説しながら、シンガポールを含めたテクノロジー先進国について解説する。特別真新しい情報はない印象であるが、実際に中国に行くなら参考書にはなるかもしれない。
2040年の未来予測
元マイクロオフィス日本法人CEO成毛眞の未来予想本。
結論としては、テクノロジーで凄く便利になり、世の中は変わるということを書いた本。一方で、大半のページを使って書かれているのが「日本やばい」である。
とにかく高齢化と日本の安売りに警鐘を鳴らしている。労働力も足りないし、資源もない。さらには教育投資も少ない日本には未来がないとのことである。
今の絶望的な状況を何とかするのは無理であり、できる事としてはテクノロジーに詳しくなって個人的に助かるしかない。
過去のノウハウを繰り返して豊かになる時代はとっくの昔に終わっている。これからは、インターネットを活用した教育などで、とにかく生産性を上げる工夫をしていくことが求められる。
2025年、人は買い物をしなくなる
AIの導入やデジタル化によって、人がウンウン悩んで商品を購入する必要がなくなる!という本。
そもそも買い物は面倒である。イオンモールで色々な店を回るのも大変だし、スーパーに毎週買い出しに行くのなんてもってのほかである。しかも帰りは大荷物を持って買えるとなると、楽しい買い物は実はほんの一部だったことに気付かされる。
そもそも現時点で、アマゾンのレコメンドやインフルエンサーのおすすめを頼りに購買をしている人は少なくない。AIの精度が上がれば、その判断がとにかく短くなり、最終的には判断すら不要となる。
例えば、ZOZOは洋服の生産を3週間まで縮めることで、トレンドに合った服を生産する。NetflixはAIデータから、一番人気の出そうな構成とキャストで映画を作成する。中国のスーパーは、アリババのAI情報で出店前に利益がでるかどうかわかる。
これらは結局の所、勝てるゲームしかしてないのである。これらの企業は当然どんどん大きくなるので、ユーザーの生活に取り入れられる。そして個人に最適化されたデータから、自分の好みに応じたサービスを提供してくれる。
買い物という短期的な付き合いでなく、サブスク化されたサービスという長期的な付き合いが未来のカタチなのである。
眠れなくなるほど面白いAIとテクノロジーの話
AIの超入門書。
AIは何でもできるという印象はあるが、それは違う。AIにも得意不得意はある。細かい分野の違いはあれど、特に強いのが「人間のそば」である。
人間という予測不可能な動きをする生き物に対して、統計的に動きを推測するというのが、AIの一番の強みである。そのため、マーケティングや採用といった分野での活躍が期待される。
逆に工学分野のようなガチガチに理論で固められた分野は相性が悪いので、文系AI人材の重要性を痛感する。
内側から見た「AI大国」中国-アメリカとの技術覇権争いの最前線
中国の内部事情、アメリカとの冷戦、スタートアップ紹介の3つの章で構成される本。
中国はデジタル化が進んでいるので高度な技術に見えがちだが、実際のところ他国と差を産んでいるのは「AIデータ取得」である。
中国は政府に監視されている社会のため、プライバシーへの関心が薄い。「どうせプライバシーなんかない」という考えから、民間企業もデータ収集が容易となっている。あとは民間企業が地道にAIを適用していくだけである。
その結果、道中に監視カメラが仕掛けられ、犯罪者捜査や信号管理などに利用できる環境が整えられている。
中国の進み具合を見ると、「プライバシーとはなにか」について考えさせられる。個人データの提供と体験のリッチさはトレードオフである。どこまでデータを提供するかについて、他国が厳しすぎるのかもしれない。
Pythonによる数値計算入門(実践Pythonライブラリー)
Pythonコードレシピ集-スグに使えるテクニック302-
Pythonからはじめる数学入門
Python関連書籍。プログラミングの基本は書籍で学ぶのもよいが、応用に関しては書籍で学ぶよりもネットを見たほうが良さげ。
試して理解Linuxのしくみ
超簡単Linux入門
ふつうのLinuxプログラミング
Linuxエンジニア養成読本
Linuxカーネル解析入門
Linuxカーネルの教科書
新しいLinuxの教科書
Linux本色々まとめて読んだ。ゼロから読むなら、「Linuxカーネルの教科書」「新しいLinuxの教科書」がオススメ。その次に「ふつうのLinuxプログラミング」を読むといい。
おわりに
LinuxとPython本を読み漁ってたので、テクノロジー全般の書籍が少なかったですね。VRデバイスがかなり進歩してきたので、面白いVR書籍が来年出ることを期待です。
実用書は結構面白いものがあったので、そちらも見ていただけると幸いです。
2021年上期に読んでよかった本はこちら。