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【CFD/格子法】混相流モデル(VOF法、Level Set法、フェーズフィールド法) 【格子法入門 #8】

格子法入門第8回は、解説します。「格子法入門」では第6回まではCFD(流体解析)の仕組みについて解説して、第7回は乱流モデルの基本であるRANSとLESについて解説しました。

今回は、CFD(流体解析)を実務で扱う人が最低限知っておきたい実用的な知識として、混相流のモデルについて解説したいと思います。混相流は非常に用途が広いですが、単相流と違ってまだ研究段階であることは否めません。

今回は代表的なモデルであるVOF法、Level Set法、フェーズフィールド法について解説したいと思います。特にVOF法は最もメジャーな混相流モデルなのでぜひ理解しておきましょう。

混相流モデル

混相流とは、2相以上で構成された流れのことを言います。固体と液体・気体という3つの相がありますが、固体は流体ではないので、基本的には液体と液体か液体と気体、気体と気体を解析するのが一般的です。

その中でも特に難しくてニーズが高いのが、気体と液体の二相流です。その理由は密度が大きく異なるためです。

密度が同じ気体や密度が同じ液体だと、単相流の解析結果の流線を追うだけでもそれなりの正しい結果が得られます。一方で、空気と水のように気体と液体の場合は密度差が1000倍近いため、2つの相の界面が単純な動きではなくなります。

密度も粘度も異なる流体が隣り合っているので、流れが複雑になるのは当然です。例えば、下記の2つ相の界面では複雑な力が発生しています。

まず、大きな圧力差による力が発生するので、単純に計算できません。また、単相流なら粘度による影響で温度や速度の物性値が広がるはずが、混相流の界面付近では物性値が移動しにくいので急激な物性値の変化が発生します。また、液体には表面張力があるので、混相流モデルを入れることで、ただ流れを解析するのとは大きく異なる結果が得られるというわけです。

混相流モデルの基本

混相流モデルの基本は界面の取得です。界面とは、2つの相の境目を表す単語であり、液体と気体はもちろん固体と液体などにも使われます。ただ、混相流では液体と気体の境界を指して使用されることが多い単語となっています。

今回は、混相流を扱う上で最低限知っておきたい界面取得モデル3種について解説します。表面張力などは条件によってはあまり影響しない場合が多いため、計算コストの削減のために使われないことも多いです。そのため、表面張力は別途解説したいと思います。

界面取得モデルといっても単純ではなく、正確に界面を捉えるのは非常に難しいです。そのため、精度と安定性のバランスを考えて条件に応じたモデルを使用する必要があります。それぞれのモデルが一長一短なので、まずは全部を大まかに理解しておいてから選ぶことをオススメします。

基本的に界面取得モデルは2相以上の場合であれば、気体ー気体、気体ー液体、液体ー液体の全てで使用可能です。ただ、ここからはわかりやすくするために液体ー気体の場合を仮定して解説していきます。

VOF法

VOF法(Volume Of Fruction method)は最もメジャーな界面取得モデルです。VOF法では、セル内の液体と気体の割合を0~1の割合で表す手法です。もしセル内が全て気体で満たされていれば0、液体で満たされていれば1となります。

この液体の割合のことを体積分率(Volume of Fruction)と呼びます。液体と気体を割合で示すと、各セルの体積分率は下記のように表せます。

全てのセルを液体がどの程度の割合で含まれているかで表すことができます。ここで重要なのが、界面付近では1と0の間の値が入っていることです。

格子で区切っている以上、界面に沿ったメッシュ形状にはなりません。そのため、界面では液体と気体が混在するセルが現れます。その結果、VOF法は実際の界面よりも若干ぼやけてしまうというデメリットがあります。

また、VOF法では体積分率を移流方程式で輸送します。具体的には下記の式になります。

$$ \frac{\partial \alpha}{\partial t} = u\frac{\partial \alpha}{\partial x} $$

tが時間、xは位置、$\alpha$は体積分率を表します、左辺が非定常項で右辺が移流項です。つまり、時間変化によって体積分率が移動する様子を表した式になります。

体積分率は流体の速度に応じて移動します。もとあった位置から流体が移動する現象については、単相流の移流方程式と変わらないので理解しやすいかと思います。

移流方程式と同じ形であるということは、VOF値も離散化スキームによっては拡散が発生したり、計算が不安定になるということです。例えば風上差分で離散化すると離散化誤差によって界面の厚みが増してしまいます。

実際の解析例を下記に示します。赤が液体、青が気体を表しており、界面が厚みを持っていることがわかります。特に飛沫の部分で界面がぼやけやすくなります。

界面のぼやけは非現実的な結果を引き起こす要因になります。そこで、VOF法でもナビエストークス方程式の移流項の離散化と同様に、TVDスキームやWENOなどの手法を用いて精度と安定性を両立させた手法を使います。( TVDスキームやWENO は安定性を維持することを保証した手法であり、その上で精度を極力高めるように工夫されています)

フェーズフィールド法

フェーズフィールド法は界面幅を指定することで、VOF法における界面の拡散を抑えた手法です。

少し特殊なので詳細の説明はここではしませんが、フェーズフィールド法の仕組みを簡単に言うと、拡散と逆拡散(圧縮)の項をVOF値の輸送方程式に取り入れることで界面の拡散を防ぐ手法です。

本来のVOF計算では、離散化誤差が拡散を引き起こしてしまいます。フェーズフィールド法ではこの拡散を人工的に抑えます。その結果、VOF法に比べてシャープな界面を維持することができます。

フェーズフィールド法はもともとは材料分野の式です。その中で界面に関する部分だけをCFDに取り入れています。まだまだ事例は少ないですが、今後さらに増えていくでしょう。

Level Set法(レベルセット法)

VOF法ではどうしても界面がぼやけてしまうという問題がありましたが、それに対してLevel Set法(レベルセット法)は界面をシャープにとらえることができます。

その理由はレベルセット法の仕組みにあります。

例えば、2次元の混相流解析をするとします。レベルセット法では2次元面に対して体積分率を評価することで、三次元的な山を生成します。そして、その等高線を界面としてとらえる手法です。下記がそのイメージ図です。

引用:wiki(Level Set Method)

等高線として体積分率を捉えることの一番のメリットは、界面形状が全くぼやけないことです。ステップ波を解かずに滑らかな関数を動かすので離散化誤差の影響を受けにくくなっています。

明確に界面位置が決まるので流体の動きの評価がしやすい上に、法線が得られます。法線を得ることができれば、表面張力の影響も評価しやすくなるため、流体の動きが小さい場合などはレベルセット法が非常に有効になります。

レベルセット法では下記のようにφという値がφ=0の位置を界面としてとらえます。上記では体積分率という言葉を使ってきましたが、厳密には領域等と呼んだりします。

$$ \phi > 0  @領域の内側$$
$$ \phi = 0  @境界$$
$$ \phi < 0  @領域の外側$$

レベルセット法は画像生成時の境界線をくっきりさせるために使われていた手法です。そのため、界面の鮮明さにおいてはレベルセット法は非常に有効であるといえます。

ただ、レベルセット法にも課題はあり、流体が移動するとレベルセット法における保存条件がすぐに崩れます。そのため、定期的に初期化を行う必要があります。初期化ステップも含まれることを考えると、レベルセット法はVOF法に比べてかなり複雑な手法と言えます。

レベルセット法はVOF法と組み合わせることもでき、2つを組み合わせた手法をCLSVOF法と呼びます。適度に両者のメリットを得られることから、混相モデルとしてはかなり有用です。

その他

よく使われる界面捕獲手法としては上記のVOF法とレベルセット法が有名ですが、他にも界面捕獲手法はあります。ここでは他の界面捕獲手法について概要だけ説明します。

フロントトラッキング法

フロントトラッキング法では、界面を要素として扱います。ポアソン方程式を解くことで界面を捉えることができるため、VOF法のような移流方程式が不要となります。

MAC法

MAC法はMarker and Cell法の略称で、格子法に対して界面だけ粒子運動で置き換えるという手法です。今はMAC法というと圧力分離ソルバーを指すように、本来のMAC法は使われなくなっています。

ALE法

ALE法はArbitrary Lagrangian-Eulerian法の略称であり、メッシュを変形させて界面を捕獲する手法です。

格子法は固定点で計算するため、オイラー座標で解くのが一般的です。しかし、ALEではメッシュが移動するのでラグランジュ座標でメッシュを捉えます。そのため、ラグランジュと名前に入っています。

ALE法で気液界面を捉える場合は課題が多いです。界面の移動が微小であれば問題なく解析できますが、大きくメッシュが移動する場合はメッシュ形状が破綻して計算できなくなることがあります。

固体の計算で良く使用される有限要素法(FEM)ではラグランジュ座標で計算するため、このようなメッシュ破綻がよく問題になります。

気液界面でなく、固液界面などの固体の境界面を捉えるうえでは非常に有用な手法です。今回の気液混相流流れの解析という点では活用しにくいですが、固体の動きや変形が液体の流れに与える影響を捉えたい場合は適した手法です。

おわりに

今回は混相流の解析のための界面取得モデルについて解説しました。重要な点は下記のとおりです。

  • 混相流を解析する上では、界面捕獲手法が重要となる
  • 界面捕獲手法は、安定性と精度のバランスが重要となる
  • VOF法は最も使われている手法で、体積分率(VOF値)を輸送することで液体を捉える
  • フェーズフィールド法では界面幅を調整することで、VOFのデメリットである界面の拡散を防ぐ
  • レベルセット法は3次元的な山の等高線を界面とすることで、界面をシャープにとらえることができる
  • 界面捕獲手法としては、他にもフロントトラッキング法・MAC法・ALE法などがある

特にVOF法とレベルセット法の違いを理解していただくと全体像が見えやすくなると思います。VOF法が基本的な界面捕獲手法であり、界面の拡散を抑えたいので色々な手法が増えていったと理解していただくとわかりやすいです。

VOF法にも界面を鮮明にとらえるための細かな工夫を加えた手法もありますし、レベルセット法も同様です。それぞれの手法がどんどん進化して現実的な流れを捉えるようになっています。今回は混相流モデルを紹介するために全体的にざっくりとした紹介でしたが、それぞれの解説はまた個別でやりたいと思います。