今回は、CFDは触れたことあるけど乱流については全くわからない人向けに、乱流について説明していきます。
とにかくわかりやすく説明するために、数式はほとんど使いません。それぞれの乱流モデルの分類について理解出来たら、別途やる気のある時に数式を見ればよいでしょう。
乱流だけでなく、CFDを触る上では基本知識は非常に重要です。
全然基本知識がなくてもCFDを使えばそれっぽい結果は得られますが、それっぽいからといってその結果が正しいとは限りません。
CFDでは正しい結果を得ることが重要であり、適切な手法を選択しないと正しい結果は得られません。
特に乱流はモデル選択が複雑であるため、初心者には危険な分野です。
ここで乱流に関する知識を身につけて、解析結果に自信を持てるようになりましょう。
乱流とレイノルズ数
乱流とは、渦などの主流とは別の動きをする乱れた流れを指します。
直感的にわかりにくいかもしれないので、例えを出してみましょう。
線香の煙の動きも乱流ですし、味噌汁をかき混ぜても乱流が発生します。他にも、風切り音も渦発生によるエネルギーが音に変換されたものです。つまり、意外と身近に乱流はあるのです。
乱流は、流れの慣性(勢い)が粘性よりも大きくなると発生します。
これを定量的に示したのが、レイノルズ数という無次元数です。レイノルズ数は、慣性力と粘性力の比で表されます。
$$Re = \frac{UL}{\nu}$$
ここで代表速度$U$、代表長さ$L$、動粘度$\nu$です。
このレイノルズ数が大きいと乱流が発生しやすくなります。
また、乱流は速度差により発生するため、摩擦や浮力が乱流発生の主要因となります。
先述した線香は熱による浮力で乱流が発生し、飛行機周りの乱流は壁面摩擦によるものです。
乱流モデル
CFDにおいて、メッシュより大きな渦は普通に計算すれば良いですが、メッシュより小さい渦は直接計算できません。
そのため、メッシュより小さい渦の影響も考慮したい場合は別途モデル化して組み込む必要があります。それが乱流モデルです。
乱流モデルでは、乱流の流れを簡易的な値に模擬します。
具体的には、乱流によるエネルギー散逸を渦粘性係数という粘性に模擬した値として付加することになります。
つまり、乱流はマクロ的に見ると、粘性を増加させた流れと実質的に同じ流れとなるということを意味しています。
DNS(直接数値シミュレーション)
DNS(Direct Numerical Simulation)は、乱流モデルを使わずに乱流を計算しようとする手法です。
モデル化せずに直接乱流を計算するため、非常に小さなメッシュが必要となり、莫大な計算時間がかかります。
現代の計算能力では、乱流に対してDNSを適用するのは現実的ではありません。
RANS(レイノルズ平均モデル)
RANS(Reynolds-averaged Navier-Stokes equation)は、支配方程式に対して渦をモデル化した項を加えます。
これにより、解析領域全体で乱流を考慮した解析が可能となります。
RANSでは一つひとつの乱流は追わずに、渦の時間平均を計算します。
そのため、非定常な現象は無視され、多くの場合は乱流の流れの向きも平均化された結果となります。
平均化した乱流はレイノルズ応力と呼ばれる抵抗力で表されます。そのレイノルズ応力に渦粘性係数をかけることで、擬似的に乱流を粘性増加として付加することが出来ます。
レイノルズ平均モデルは定常流れしか扱えないという弱点はあるものの、計算負荷が低い割には適用先は広く、現在最もポピュラーな乱流モデルとなっています。
k-εモデル
レイノルズ平均モデルにおいて代表的なk-εモデルでは、乱流エネルギー$k$と乱流散逸率$\varepsilon$により渦粘性係数$\nu_t$を求めます。
$$ \nu_t = C_{\nu} \frac{k^2}{\varepsilon}$$
ここで$C_{\nu} $はモデル定数です。
乱流エネルギーは乱れの強さで、乱流散逸率は乱れが消えていく速さです。
式を見ると、乱流が多いほど擬似的な粘性が高くなることがわかります。
レイノルズ数型k-εモデル
乱流は速度差により発生するため、壁に近いと乱流が発生しやすくなります。
また、乱流の発生しやすい低レイノルズ数流れでは、壁からの速度勾配も大きくなりがちです。
そのため、壁付近では格子解像度を高くする必要があります。
ただ計算能力の都合上、格子の細かさにも限界があるので、壁近傍の流れを再現するための乱流モデルを使用します。
壁近傍では粘性の影響で流速が下がり低レイノルズ数になるため、低レイノルズ数型k-εモデルと呼ばれます。
壁関数
低レイノルズ数型k-εモデルでは、壁関数により乱流モデルを修正します。
壁関数とは、壁からの距離に応じた関数であり、壁に近いほど乱流モデルの修正量が大きくなります。
壁関数では、対数則と呼ばれる壁からの距離のグラフに基づいて、計算領域を3つに分割します。
壁に近いところから「粘性底層」「緩和層」「対数領域」と呼ばれ、「粘性底層」と「緩和層」でモデルを適用することで、厚いメッシュでも壁の影響を精度良く計算できるようになります。
LES(Large Eddy Simulation)
LESでは、格子サイズ以上(グリッドスケール)の渦は直接計算して、格子サイズ以下(サブグリッドスケール)の渦は乱流モデルを適用します。
RANSでは領域全てに乱流モデルを適用していたのに対して、LESでは格子サイズ以下の小さな渦にのみ乱流モデルを適用します。
これにより、LESではモデルに頼る部分が少なくなるため汎用性が高くなり、間違ったモデル選択による誤差発生も抑えられます。
さらに、LESでは流れを支配する大きな渦を直接計算するため、RANSでは出来なかった非定常計算も行えます。
(RANSでは時間平均したモデルを適用するので、定常状態しか扱えなかった)
スマゴリンスキーモデル
LESの代表的なモデルとして、スマゴリンスキーモデルが挙げられます。
スマゴリンスキーモデルでもRANSと同様に、速度勾配から得られた応力により渦粘性係数を計算します。
ただ、RNASのように乱流エネルギーや乱流散逸率は使用しません。代わりにLESでは格子サイズと速度勾配の大きさのみで渦粘性係数が決定されます。
LESでは渦粘性係数の計算に方程式を解く必要がないため、RANSに比べると渦粘性係数の計算が簡易的となります。さらに精度を高めるためにRANSと組み合わせる例なども考案されています。
LESの唯一の弱点は、小さい渦から大きい渦の形成が再現できないという所で、これは現在では未解決の問題となっています。
おわりに
今回は乱流に関して、数式をほとんど使わずにそれぞれのモデルについて説明しました。
とりあえず下記だけは頭に入れておくと、乱流の全体像がつかめるでしょう。
- RANSは乱流を時間平均して、全体に乱流モデルを適用する
- RANSは計算コストが低いが、定常流れのみしか扱えない
- LESは格子サイズより小さい渦をモデル化する
- LESでは計算コストが高いが、非定常流れも扱える
LESが可能であればLESを使うと良いですが、計算コストが高いです。
現在の環境を加味して、最も精度の高い乱流モデルを選択できるようになりましょう。