分子動力学などミクロな対象を計算したい場合には、分子間の相互作用を考慮する必要があります。
ユーザーとして利用する場合は多くの力がブラックボックス化されているため、分子に働く力をすべて考える機会は少なくなっていますが、理論を理解しておくことは技術者として重要なことです。
計算は必ずしも正しい答えを出してくれるとは限りません。技術者が正しい結果であるかを判断する上でも、分子同士に働く力を理解しておくことは重要です。
ここでは、理論的に分子間に働く力について紹介します。
ファンデルワールス力
分子には電荷を帯びた極性分子と電荷を持たない無極性分子があります。
これらに働く力を分類し、ファンデルワールス力は3つの力に分けることが出来ます。
永久双極子同士の相互作用
極性分子同士に極性による分子間力が働くのは直感的にわかると思いますが、一部の無極性分子も極性分子の影響を受けて極性を持つことになります。これを分極といいます。
極性分子によって分極した無極性分子と極性分子をまとめて永久双極子と呼びます。
つまり、極性分子ー極性分子、極性分子ー無極性分子において、極性による力が働くこととなります。このように、永久双極子同士に働く分子間のエネルギーを双極子モーメントと呼びます。
誘起双極子同士の相互作用
無極性分子同士には相互作用が働かないように感じますが、実は無極性分子に働く分散力と呼ばれる力が働きます。
分散力は瞬間的な電子の偏りによって働く力です。一つの分子内で偏りによって双極子となり、電場の偏りによって他の分子に極性を誘起します。
そして、瞬間的な電子の偏りによる双極子と、誘起された双極子によって分子間力が働くことになります。
これらをまとめて誘起双極子といい、誘起双極子の相互作用として分類されます。
永久双極子ー誘起双極子の相互作用
無極性分子は、極性を持つ分子によって作られた電場によって誘起双極子となることもあります。
そのため、永久双極子(極性分子と極性分子によって分極した無極性分子を含む)によって、無極性分子が誘起双極子になることがあります。
よって、永久双極子と誘起双極子の間にも相互作用が働くことになります。
ポテンシャル力
多くの場合で、分子動力学ではポテンシャルエネルギーを使って分子間の相互作用が表されます。
分子が近づくと電子雲の相互作用によって力が発生するとします。そして、それがファンデルワールス力の式である距離の6乗に比例するとして、非常に簡易的に表したのがポテンシャルエネルギーです。
ポテンシャルエネルギーは計算対象の分野によって様々なものがあります。それらをうまく使い分けることが正しい解析を行う上での重要な知識になります。
おわりに
今回は分子動力学において重要なファンデルワールス力について紹介しました。
ファンデルワールス力は分子動力学ではポテンシャルエネルギーとして簡易化されています。中身を知ることで、分子に働く力の解像度を高めておきましょう。
また、分子動力学は対象のスケールに応じていくつかの手法に分類されます。何を考慮した解析であるのかを理解することで、解析の妥当性を正しく検討できるようになるでしょう。