今回は分子動力学におけるポテンシャル力について解説します。
ポテンシャル力
ポテンシャル力というと一般的には分子間ポテンシャルを想像しますが、実際は分子間ポテンシャルと分子内ポテンシャルの2つがあります。
分子間ポテンシャルはクーロン力やファンデルワールス力などの分子間に働く力であり、分子内ポテンシャルは一般的な分子動力学では計算されない分子振動などが含まれます。
基本的にはポテンシャル力は物理的な相互作用を完全に再現しているわけではありません。何かしらの簡略化が行われています。
また、ポテンシャル力はあくまでエネルギーに基づく手法なので、エネルギー以外の物理量については正しく計算できません。そのため、新のポテンシャルではなく、あくまで仮定に基づいて目的関数を計算するためのポテンシャルを設定していることになります。
分子間ポテンシャル
分子間ポテンシャル力は、分子の中心を基準として、互いの分子に働く力(例えばクーロン力)を計算します。
分子間ポテンシャル力は、分子の中心からの距離に応じてかかる力として表されます。近づきすぎれば斥力、遠いと引力が働くようになっています。
ここの目的関数に応じて有効なポテンシャルを設定する必要がありますが、これが結構大変です。特に混合系では組み合わせが様々であるため、莫大なデータが必要となります。
そのため、混合則という一括して近似する手法や、汎用ポテンシャルのように個々の違いを考えない簡略化した手法が取り入れられています。
分子内ポテンシャル
分子内ポテンシャルでは、分子振動とねじれ運動についてポテンシャル関数を考えます。
分子振動は、原子間にバネを設定し、剛性パラメータに基づく伸張運動と変角振動についてポテンシャル力とします。
ねじれ運動についても同様で、ポテンシャルパラメータの設定に応じたねじれによりポテンシャル力が与えられます。
ポテンシャルパラメータ
ポテンシャルパラメータの設定方法として、経験ポテンシャルと非経験ポテンシャルがあります。
経験ポテンシャル
経験ポテンシャルは、実験値に基づいてパラメータを設定します。
あくまで実際の実験により得られた結果にもとづいているため、温度や圧力が指定された状態以外では、ポテンシャルの有効性が保証されていません。
そのため、どのような条件で得られたポテンシャルであるかを理解しておく必要があります。
非経験ポテンシャル
非経験ポテンシャルは、分子軌道計算から真の2対相互作用を求めることで、ポテンシャル力を決定します。つまり、理論的に導いた手法とも言えます。
ただし、計算上の都合により十分な計算ができず、補正している部分がどうしても残ります。
補正するために実験と照らし合わせるため、実際のところは非経験的ポテンシャルの理論に乗るように経験的ポテンシャルを設定しているともいえます。
自由度の観点から、経験的ポテンシャルが一般的に使われますが、化学反応などの観測が難しい現象については非経験的ポテンシャルが使われることになります。
おわりに
今回はポテンシャル力について紹介しました。
ポテンシャル力としては分子間力が一般的ですが、分子内の力を計算することももちろんあります。
これらについて様々な手法を知っておき、手法を選択できるようになりましょう。
本サイトでは、分子動力学について他にも解説しているため、そちらもご覧いただければ幸いです。