回帰不連続デザイン(Regression Discontinuity Design, RDD)は、政策評価や因果関係の推定において非常に強力な手法です。このデザインは、特定の基準を超えたときに介入が行われる場合、その基準の周辺での効果を比較することで、因果関係を推定します。この記事では、回帰不連続デザインの理論的背景、実施方法、適用例、およびその利点と限界について詳しく解説します。
1. 回帰不連続デザインとは
回帰不連続デザインは、連続変数に基づいてグループを分けることで、介入の効果を測定します。例えば、学生がテストのスコアに基づいて奨学金を得る場合、特定のスコア(カットオフ)を超えた学生が奨学金を受けることができます。このカットオフの近くにいる学生同士を比較することで、奨学金の効果を推定します。
1.1 理論的背景
RDDは、以下のような数式で表現されます。
$$
Y_i = \alpha + \beta D_i + f(X_i) + \epsilon_i
$$
ここで、
- $Y_i$: 目的変数
- $D_i$: カットオフを超えたかどうかを示すダミー変数($D_i=1$なら介入あり、$D_i=0$なら介入なし)
- $f(X_i)$: 説明変数(連続変数)に基づく関数
- $\epsilon_i$: 誤差項
1.2 カットオフ
カットオフは、介入が行われる境界線です。この周辺でのデータを用いて、介入の効果を比較します。カットオフの設定が適切であることが重要で、ランダムに振り分けられたサンプルが得られたと仮定します。
2. 回帰不連続デザインの手法
2.1 データ収集
RDDを実施するためには、カットオフの近くにあるデータを集める必要があります。例えば、奨学金の例では、カットオフスコアの少し下と少し上の学生のデータを集めます。
2.2 回帰分析
収集したデータを使い、以下のような回帰分析を行います。
$$
Y_i = \alpha + \beta D_i + f(X_i) + \epsilon_i
$$
この回帰により、カットオフを超えた場合の効果($\beta$)を推定します。
2.3 グラフの作成
結果を視覚化するために、カットオフ周辺のデータをプロットし、回帰線を引きます。これにより、カットオフの両側の変数の振る舞いを比較できます。
3. RDDの利点
3.1 自然実験としての強力な設計
RDDは、無作為化実験が困難な状況で因果関係を推定するための強力な手法です。カットオフの周辺での比較により、介入の効果を精度高く評価できます。
3.2 バイアスの低減
カットオフを利用することで、観察可能な外的要因の影響を抑えることができ、より純粋な因果関係を推定できます。
4. RDDの限界
4.1 カットオフの設定
カットオフの設定が適切でない場合、結果が歪む可能性があります。また、カットオフ付近のデータのみを使用するため、サンプルサイズが小さくなることもあります。
4.2 効果の一般化
RDDは特定のカットオフの周辺での効果を測定しますが、この効果が他の集団や条件に適用できるかどうかは不明です。
4.3 バイアスの可能性
カットオフの周辺でデータが収集されるため、特定の条件が存在する場合にはバイアスがかかる可能性があります。例えば、カットオフ付近でのデータの分布が異なる場合、結果が不正確になることがあります。
5. RDDの実例
5.1 教育政策の評価
例えば、特定のテストスコアを超えた生徒に奨学金を提供する政策を評価する場合、テストスコアのカットオフ付近にいる生徒を比較することで、奨学金が学業成績に与える影響を測定できます。
5.2 医療の研究
病院の入院基準が特定の年齢を超えた場合に変わるとします。この場合、年齢のカットオフを用いて、入院基準の変更が患者の健康結果に与える影響を評価することができます。
6. まとめ
回帰不連続デザインは、因果関係を推定するための強力な方法であり、特に自然実験の設定で非常に有効です。カットオフを利用することで、介入の効果を明確に評価できますが、その限界も理解しておく必要があります。様々な分野での応用が期待されるRDDを活用して、より良い政策評価や研究を行っていくことが重要です。