2021年上期に読んだ27冊の技術書の中から、おすすめを紹介します。ぜひ本探しにお役立てください。
上半期に読んでよかった本BEST5
アフターデジタル1,2
中国のハイテク事情について紹介した本。
ウィーチャットペイとアリペイによってキャッシュレスが異常に進んでいるというのは既に周知の話。本書で特に面白いのは、金融とオフラインである。
ジーマン信用によって個人がランク付けされることで、保険等の審査が不要になったり、日頃の行いが良くなっている。ジーマン信用によって急激に中国人の文化が変わりつつある。工夫として面白かったのは、「犯罪以外は減点しない」という仕組みである。確かに減点ルールが多いと、PSYCHO-PASSの世界観になりそうな気がする。
中国ではオンラインが進化し過ぎたので、オフラインとの融合が熱い。無人コンビニや郵送スーパー等。スーパーとして存在していた小売店はショールームと化しており、未来を先取りしている。
急速な成長の裏には、顧客接点=データの奪い合いがある。顧客と一緒に成功すると言えば聞こえは良いが、結局は一人勝ちポジションの奪い合いをするためには安く良いものを提供するしかないのである。
日本企業が学ぶ事は非常に多い。良書だが、実用に結び付けるまでのハードルは高い。
ソフトウェア・ファースト-あらゆるビジネスを一変させる最強戦略-
ハードウェアはソフトウェアのためにある。ソフトウェアはユーザーエクスペリエンスのためにある。ユーザーエクスペリエンスは人々を満足させるためにある。よって、ソフトウェアは重要である。という話。
日本と海外の最も大きな違いは、ソフトウェアエンジニアがソフトウェア企業でしか働いていないことである。つまり、外注が進みすぎているのだ。
そこで本書では、差別化となる技術を自社で持つことで、顧客接点を掌握し、他社と差別化を図っていくことが推奨されている。
何を外注して、何を自社で開発するかの判断が問われるので、管理職のソフトウェアに関する知識が重要となる。
TikTok 最強のSNSは中国から生まれる
インターネットの流行りがFacebookやTwitterなどの「テキスト形式」からInstagramなどの「画像形式」そしてYouTubeという「動画形式」に移り変わっている。
そして今の若者の注目をかっさらっているのが「ショートムービー」である。TikTokは既存の技術を組みわせており、新しい技術はない。しかし、中国以外にもアメリカやインドで大流行し、日本でも頭角を表している。
ショートムービーの圧倒的な強みは、「非言語」であること、そして「アップロードのハードルの低さ」である。
日本と違ってインドでは共通の言語がない。つまり映像だけで伝わるというだけで、視聴者は圧倒的に増える。識字能力の低い若者世代からの支持が大きいのも、これが理由だと考えられる。
YouTubeも動画サイトとしては強いが、広告の都合上、長く視聴してもらうことに重きを置いている。最近の急上昇では長時間生配信なども増えてきており、配信のハードルが上がっている。
一方で、TikTokは長さに制限があり、アップロードしやすい。そして、量が増えれば、AIがうまく機能することで視聴者の好みに合わせた動画を見せられる。TikTok(バイドゥダンス)の前身は過去にニュースアプリを作っていたこともあり、オススメを上手く提供することで圧倒的な支持を得ている。
これからTikTokが成功するのが目に見える超良本。ちなみに作者はこれを書き上げたあとにバイドゥダンス本社に就職している。さすが。
いちばんやさしいアジャイル開発の本
アジャイル開発とは何か、について詳しく書かれた本。
結局は、ユーザーニーズを聞いて出戻りさせるのが一番重要であり、「使われるソフト」を作ることを重視している。実際、作った機能の9割が使われないと言われるほどに、ソフトウェア業界においてニーズにマッチしたアプリをつくるのは難しい。
出戻りがあるということは、他部門との協同も自ずと増える。その結果、コミュニケーションが重要となってくる。他の人が何をやっているか把握するための掲示板や円滑な会議など、アナログな部分が意外と重要になってくる。
サブスクの時代には、アジャイル開発の知識は必須。ウォーターフォールなんてのもあったんだなぁという時代にすぐになりそう。
プラットフォームの教科書
GAFAを筆頭に、テクノロジー企業が大きくなった理由として「プラットフォーマー」になれたことが挙げられる。プラットフォームの重要性と戦略を述べた本。
実はSNSだけでなく、ゲーム機やOSなどもプラットフォームの1つである。これらは、ネットワーク効果や大量生産と相性が良いため、一人勝ちが起きる。それと戦うためには、うまく別の企業と組むか、無料化してビジネスをぶっ壊すしかない。
本書を読むと、今のキャリアのしのぎの削り合いや、PC業界のレイヤーマスターの争奪戦で、何が起こっているか理解できるようになる。良書。
その他読んだ本リスト
ディープテック-世界の未来を切り拓く「眠れる技術」-
ディープテックとは、社会的インパクトが大きく、研究開発が必要で、ESG関連であるものである。
先進国の日本では、新興国に対して「今まで売ってきたものをいかに広げるか」ばかりを考えがちだが、現状は少し異なる。
新興国では、インフラを整えるのが後回しになることで、他国の進化フェーズをすっ飛ばす「リープフロッグ現象」というものが発生する。その結果、今までに必要とされていなかった新しい技術が必要になったり、逆に枯れた技術が役に立ったりと意外な事がたくさん起こる。
新興国で自社技術をいかに活かすかタイミングを見極めるためにも、急速に発展する現地環境をウォッチし続けるのが大事である。
Beyond MaaS-日本から始まる新モビリティ革命-移動と都市の未来--
話題になったMaaS本の二作目。
本書では「日本版MaaS」に着目して書かれている。他国でもMaaS化が上手く行っているところもある。
UberやGrabなどで低所得者層に仕事を与えつつ、その業務を宅配にまで広げたもの。政府主導で公共交通機関をまとめてアプリで管理できるようにしたもの。自動運転で人的リソースを減らしたものなどさまざまである。
日本の特徴として、「鉄道が民営である」ことから、政府としては上手くビジネスとして成り立たせることを目標としている。
例えば今はJRが駅デパートを作っているが、このように公共交通機関以外で収益化させる算段なのである。そこで重要なのが「Beyond MaaS」の考え方。不動産や旅行、医療と上手くコラボして、独自の進化を目指す。
VR実践講座-HMDを超える4つのキーテクノロジー-(設計技術シリーズ)
VR研究を長年やってきた教授が、VR技術について説明した本。
VRといったらヘッドマウントディスプレイのイメージがある。しかし、VRの本来の意味は「仮想現実」であり、もっと広い意味である。
本書では、触れた感覚や歩く感覚など、ヘッドマウントディスプレイの一歩先の技術について著者が取り組んだものが紹介されている。今後のVRの動きを予測する上で、非常に参考になる本。
バーチャルリアリティ学
バーチャルリアリティ(VR)が注目を浴びてきている。ヘッドマウントディスプレイ(HMD)をつけた瞬間に仮想空間に入れて、しかも楽しく運動もできる。
しかし、本書で説明されているのは、HMDだけの話ではない。音や匂い、体の動きをどうデバイスに伝えるかという、「仮想空間に没頭するための技術」について包括的に解説されている。
特に面白いのが「動きをどうやってデバイスに伝えるか」である。超音波や画像認識、ジャイロセンサなど多様なセンサがある中、特性を知った上でどれを選択するかが重要になる。
VRの一番基礎の部分を深く掘り下げた本。
仮想空間とVR
Vtuberの注目とともに、ライブVRが盛り上がっている。有名なのはVARKとclusterであり、VARKは現在ホロライブのライブイベントを開催している。clusterは輝夜月のライブ開催から順調に人気を増やしている。
普通のライブと異なり、主な収益源としてチケットやグッズに加えて、アーカイブ動画とバーチャルグッズが含まれる。特にバーチャルグッズが収益源として大きく、普通とのライブと大きく異なる点である。
バーチャルライブでは、バーチャルグッズとして花火を上げたり演出を増やすことで、観客参加型でライブを盛り上げられる。一瞬を華やかに彩るライブにおいて、一観客が盛り上げる力を持てるというのはとても大きい。
実際、一回のチケットは4000円近く、一般的なライブとさほど変わらないくらいには高額にも関わらず、バーチャルライブの満足度はとても高いとのこと。普通のライブとは違って、観客が身近に感じられることが大きな強みになっている。ホロライブが、一人がステージ上、一人が観客席に立って一緒に見るというコンテンツを出しているのも非常に面白い。
僕らはSNSでものを買う
少しずつ普及しつつあるSNSマーケティングについて解説した本。
一番のメッセージは「ファンを増やす」である。最終的に購入に繋げたいなら、PVやフォロワーは評価指標にはならない。熱意を持ったファンが、「信用できる身内」として知り合いに広めてくれることこそが重要なのである。
noteでもおすすめコンテンツに企業アカウント多いなぁという印象があったが、企業が広告を打つよりも良質な記事を書くようになったと考えると納得できる。
プログラミングスクールがブログでTipsを書いたりと、ブログを流入源とするやり方は一般的になっている。次はYouTubeかな?
スケールフリーネットワーク-ものづくり日本だからできるDX-
スケールフリーネットワークとは、ウェブページのように一つのページが他のもののリンクを集め、一人勝ちしていくような構造を指す。
ここで重要なのは、「リンクを集める」ということだ。多数の人がただの顧客ではない形で関わることで、協力してサービスを伸ばしていくことができる。
東芝の例だと「ifLink」というIFTTTのような製品があり、この製品は顧客が繋ぎたいサービスを自由に考えることで、自由度の高い使い方ができる。
オープンイノベーションやオープンソースソフトウェアが着目されているように、いかに大衆の知識を分けてもらうかが、成功の鍵となってきている。特に今後は、日本の得意な「モノ」の関わるIoT製品の革命が来ると言われている。競争優位性を維持したまま社外リソースを活用するバランス感を身につけることが重要なスキルとなる。
入門コンピュータ科学-ITを支える技術と理論の基礎知識-
通信、プログラミング、ハードウェアなど広く浅く学ぶ系の本。白黒で読むモチベーションは下がるが、図もそこそこあって説明もわかりやすい。ベストではないがベター。
教養としてのコンピューターサイエンス講義
大学の講義のように、ITについて広く浅く網羅した本。
どこにも書かれていないが、おそらく「カーニハン先生の〜講義」みたいな名前の昔出された本とほぼ全く同じ内容。最近増えてきた「表紙だけ変えました」だと思う。
IT知識を広く浅く、という点では非常にかゆいところに手が届くが、いかんせん文字ばっかりで読みにくい。訳者あとがきで「字ばっかりでも理解しやすくてすごい!」的なことが書かれているが、初心者からすると「図もつけてくれよ、、、」と思う。
専門用語で躓かない程度のIT古参が、暇つぶしに読むならアリなんかなーという本。
岩波講座計算科学
コンピュータの構成と設計-ハードウエアとソフトウエアのインタフェース 第5版
コンピュータのソフトウェアとハードウェアの基本について書かれた本たち。
コンピュータの構成と設計のほうは、PC内の普段ブラックボックス化されている部分について書かれている。内容が深いので、専門職以外には難しいと感じた。
計算科学のほうは並列計算に特化した内容。実用的な内容が多かったので、必要な時に読み直したい。
Pythonによる数値計算とシミュレーション
常微分方程式と偏微分方程式の解き方。他にもいくつかシミュレーションのプログラムが解説されている。あくまで入門書だが、類似書籍がないので貴重な本。
科学技術計算のためのPython入門-開発基礎、必須ライブラリ、高速化-
基本的なPythonの解説に加えて、numpy, scipyなど科学技術計算ライブラリについて解説した本。他の入門書を一度読んでおかないと、理解するのはかなり難しいと思う。
コンピュータグラフィックス-絵と文章でわかりやすい!
数式一切なしでCGについて解説した本。よく使われるカタカナ語などを知るためには、入門書としては良いかもしれない。理論系よりは、UE5やUnityを使ったクリエイター向けの用語集と思ったほうが良い。
これからのブロックチェーンビジネス
ブロックチェーン解説書。技術解説から事例まで、かなり詳しく書かれている。入門書としては少し難しいかもしれないが、しっかり学ぶには良い本。
事例として、既にブロックチェーン技術を取り入れたメールシステムや保険、ブラウザ等が存在しており、予想を上回るスピードで世の中が変わっている。
ただ、やはりブロックチェーンはコストと安全性のバランスが難しい。運用コストを下げたブロックチェーンには価値がないのがジレンマである。
NFS(ノンファンジブルトークン)は、富裕層の娯楽としてはありなのかもしれないが、まだまだ胡散臭さと夢物語止まりといったところである。
これからのIoTビジネス
伊藤園は自販機をIoT化することで、在庫管理を楽にした。Putmenuは飲食店の注文と支払いを入店前に済ませるシステムを作り、飲食店の回転率を上げた。KOMTRAXは、建設機械のデータから稼働監視と盗難防止を可能にした。
このようにIoTは今までの産業の隙間を上手く埋めることで、効率化したり、新しい価値を生み出したりする。既存産業の「隙間」を上手く見つけることがIoT化のカギとなる。
図解IoTビジネス入門
IoT入門書。IoTはビジネスモデルを大きく変える。ソフトウェアでサブスクが増えているように、モノに関しても今後はサブスク化が進むだろう。レンタル形式にすることで、顧客は最新機器が使用でき、企業はデータ収集ができるため、Win-Winになる。
特に不動産との相性がよいので、サービスコミコミのIoT盛り盛りの賃貸がいずれできるだろう。ちなみに、中国では既にこのようなサービスが流行り始めている。
次世代スパコン「エクサ」が日本を変える!
スパコンとは何か
スパコンとは何か-1位か2位か、それが問題か
絵でわかるスーパーコンピュータ
スパコン関連の本。基本的に読み物であり、仕組みに関する内容は少なめ。
エクサスケールの衝撃
スパコンの進化やば!未来予測してみた!という内容の本
スパコンの話も出てくるが、内容のほとんどは未来予測。エネルギー問題も解決して、お金もいらないし、もはや労働すら不要になる、らしい。
あくまでCPU性能や技術がこれまで通りに進化して、20年くらい経ってからの予想なので、実用書というよりも娯楽書に近い。
技術的な部分は結構詳細まで突っ込んでたので、専門の人が見ると面白いかもしれない。
おわりに
VRとスパコンの本が多かったですね。VRはまだまだ成熟産業じゃないので、技術書がまとまっていません。市場として盛り上がるのはもう少し先かなという印象でした。Vtuberの登場で、バーチャルライブが流行りだしたので、VRよりもモデリング等の技術のほうが先行して進んでいくと思います。ゲームエンジンのUE5も機能追加されましたし、3Dモデルを扱えると今後のテクノロジー社会で上手く仕事を手に入れられるんじゃないかなと思います。
スパコンに関しても、良い本は少ない印象です。技術的な面は、CPUやGPU等の個別のパーツを解説した本を読んだほうが良いと思います。コンピュータ・アーキテクチャの解説書は少ないので、Youtubeに動画あげることにしました。ぜひそちらも見ていただけると幸いです。
実用書BEST5も紹介しています。ネタバレすると、1位は独学大全です。独学大全はマジで最高に良かった。