今回は分子動力学の中でも、分子間に働く力について解説します。
分子動力学は、分子間に働く力に基づいて時々刻々と変化する分子の位置をシミュレーションする手法です。
当然ですが、分子間に働く力をどう設定するかがとても重要であり、分子動力学の全てを決定すると言っても過言ではありません。
そこで、ここでは分子間にはどんな力が働くかを知ることで、中身を理解してシミュレーションできるようになることを目指します。
静電相互作用(クーロン力)
クーロン力は、電荷間の相互作用です。
例えば水分子は電極を持っており、分子間力が働きます。このような電荷や極子によるよる作用を双極子ー双極子相互作用といいます。
長距離でも働くため、エワルドの方法などで簡略化してシミュレーションに組み込まれます。(以下詳細)
長距離力
クーロン力は相互作用エネルギーが距離の$\frac{1}{r}$、力の大きさは$\frac{1}{r^2}$倍にしかならず、距離に対しする減衰が少ないです。
分子動力学では計算領域を小さく分割して周期境界条件として計算するため、長距離力の影響をすべて考慮することはできません。
そのため、エワルドの方法によって対処されます。
エワルドの方法は、ポテンシャル力をカットせず、周期境界の無限遠の分子の相互作用の影響を考慮する手法です。
分極
分子が作る電場によって他の分子が分極することもあります。これを誘起双極子モーメントといいます。
ファンデルワールス力
分子構造や電場による極子を持っていない分子でも、電子の状態は時々刻々と変化するので分極が発生します。
このような時間的変化によって電子の位置が変わることで発生する引力をファンデルワールス力といいます。
結合力
水分子などは2つの分子が水素結合することによって引き合っています。
水素結合は強力であるため、特に水やタンパク質系では結合力が大きな影響を持ちます。
斥力
電子が重なり合うと、エネルギーが急上昇して場が不安定になります。
全ての分子に置いてこのような斥力が発生します。そのため、分子動力学シミュレーションにおけるポテンシャル力においても、分子が近いと斥力が発生する関数が使用されます。
力の距離と大きさ
上記で紹介した力は、働く力の距離順になっています。つまり、クーロン力が最も遠くまで働き、斥力が最も近くで働きます。
分子動力学では、これらをまとめてポテンシャル力として考慮するということが行われています。
共有結合
ここまでは分子動力学に置いて、ポテンシャル力で考慮されている力について紹介しました。
イオン結合については分子間力として考慮している一方で、共有結合と金属結合については簡略化されています。
一般的に分子動力学では共有結合は固定されていたり、バネとして模擬されます。金属結合に関しては、電子による影響が大きいため、解析が難しくて考慮しない場合がほとんどです。
よって、あくまで分子動力学は適度に簡略化しながら可能な範囲で分子運動を計算しているということを心に留めておきましょう。
おわりに
今回は分子動力学における分子間力について紹介しました。
分子動力学は、分子間力をポテンシャル力として与えるため、実際の物理現象を捉えにくい解析手法です。しかし、解析というのは実現しょうと照らし合わせることで、考察が何倍にも深まるものです。
ぜひ、実現象と照らし合わせた解析の考察を心がけましょう。
ポテンシャル力【分子動力学】 – ITとCFD入門サイト (itandcfd.com)