ここでは数回に分けて乱流について解説します。
前回は乱流の基本について説明しました。特に壁関数や渦粘性について触れたので、ぜひ事前知識としてご覧頂くと今回の内容も理解しやすいと思います。
ここでは、$k-\varepsilon$モデルを始めとした乱流モデルの分類と特徴について説明したいと思います。
$k-\varepsilon$モデル
まずは、最もよく利用される乱流モデルの一つである$k-\varepsilon$について説明します。
$k-\varepsilon$モデルは高レイノルズ数の乱流モデルです。
$k-\varepsilon$モデルは、乱流エネルギー$k$と散逸率$\varepsilon$を導入して、下記式のように渦粘性$\nu_t$をモデル化します。
$$ \nu_t = C_{\mu} \frac{k^2}{\varepsilon} $$
ここでモデル定数$C_{\mu}$です。
$k$と$\varepsilon$の次元はそれぞれ$k[L^2 T^{-2}]$、$\varepsilon [L^2 T^{-3}]$です。
$k$と$\varepsilon$の方程式は下記の通りです。
$$\frac {\partial k}{\partial t}+\nabla \cdot(k \bar{u}) = P_k – \varepsilon + \nabla \cdot ( (\nu + \frac{\nu_t}{\sigma_k}) \nabla k )$$
$$\frac {\partial \varepsilon}{\partial t}+\nabla \cdot(\varepsilon \bar{u}) = \frac{\varepsilon}{k} (C_{\varepsilon 1} P_k – C_{\varepsilon 2} \varepsilon ) + \nabla \cdot ( (\nu + \frac{\nu_t}{\sigma_{\varepsilon}}) \nabla \varepsilon )$$
$\varepsilon$の式は半経験的であり、各定数は下記の通りで設定されるのが一般的です。
$$ \sigma_{\mu} = 0.09 $$
$$ \sigma_{k} = 1.0 $$
$$ \sigma_{\varepsilon} = 1.3 $$
$$ \sigma_{\varepsilon 1} = 1.44 $$
$$ \sigma_{\varepsilon 2} = 1.92 $$
壁近傍の$k-\varepsilon$モデル
標準の$k-\varepsilon$モデルは高レイノルズ数を対象としたものなので、壁付近などの低レイノルズ数になる領域ではモデルの修正が必要になります。
手法としては、壁法則と低レイノルズ数型$k-\varepsilon$モデルがあります。
壁法則
壁の近くでは$k-\varepsilon$モデルを使わないという手法が壁法則です。
つまり、この位置から$k-\varepsilon$モデルを点(第一格子点$y^+$)を使用します。
点$y^+$の流速$u^+$は壁面対数則より、下記で書けます。
$$ u^+ = \frac{1}{\kappa} \ln y^+ + As $$
ここで$u^+$と$y^+$は下記の式で定義され、$u^*$は反復により計算します。
$$ u^+ = \frac{\bar{u}}{u^*} $$
$$ y^+ = \frac{u^* y}{\nu} $$
乱流エネルギー$k$と散逸率$\varepsilon$は下記で表せます。これを壁関数といいます。
$$ k = \frac{u^{*2}}{\sqrt{C_{\mu}}} $$
$$ \varepsilon = \frac{u^{*3}}{\kappa y} $$
低レイノルズ数型$k-\varepsilon$モデル
壁法則は壁付近で$k-\varepsilon$モデルを使わない手法でしたが、低レイノルズ数型$k-\varepsilon$モデルは$k-\varepsilon$モデルを拡張して壁付近まで計算できるようにしたモデルです。
低レイノルズ数型$k-\varepsilon$モデルでは、補正項と補正関数を追加し、壁付近の粘性を考慮する減衰関数を導入します。
低レイノルズ数型$k-\varepsilon$モデルにおける乱流エネルギー$k$と散逸率$\varepsilon$の輸送式は下記になります。
$$\frac{D k}{D t} = P_k – \varepsilon + D + \frac{\partial}{\partial x} ( (\nu + \frac{\nu_t}{\sigma_k}) \frac{\partial k}{\partial x} )$$
$$\frac{D \varepsilon}{D t} = \frac{\varepsilon}{k} (C_{\varepsilon 1} f_1 P_k – C_{\varepsilon 2} f_2 \varepsilon ) + \frac{\partial }{\partial x} ( (\nu + \frac{\nu_t}{\sigma_{\varepsilon}}) \frac{\partial \varepsilon}{\partial x}) + E$$
DとEは補正項で、$f_1, f_2$は補正関数であり、Jones-Launderモデルでは下記のように表せます。
$$ D = – 2 \nu (\frac{\partial \sqrt{k}}{\partial y})^2$$
$$ E = 2 \nu \nu_t (\frac{\partial^2 \bar{u}}{\partial y^2})^2$$
$$ f_1 = 1 $$
$$ f_2 = 1 – 0.3 e^{-R_T^2}$$
$$ f_{\mu} = e^{\frac{-2.5}{1 + \frac{R_T}{50}}}$$
$R_T$は乱流レイノルズ数と呼ばれ、局所的なレイノルズ数を表します。
$$ R_T = \frac{k^2}{\nu \varepsilon} $$
$k-\omega$モデル
$k-\omega$モデルもよく使われる乱流モデルです。
$k-\omega$モデルは壁面に近い乱流境界層で良い精度が得られるので、$k-\varepsilon$とうまく使い分けられます。
渦粘性係数$\nu_t$、乱流エネルギー$k$、比散逸率$\omega$の輸送式は下記になります。
$$ \nu_t = \frac{k}{\omega} $$
$$\frac{D k}{D t} = P_k – \beta^* k \omega + \frac{\partial}{\partial x} ( (\nu + \frac{\nu_t}{\sigma_k^*}) \frac{\partial k}{\partial x} )$$
$$\frac{D \omega}{D t} = C_{\omega1} \frac{\omega}{k} P_k – C_{\omega 2} f_2 \omega^2 + \frac{\partial }{\partial x} ( (\nu + \frac{\nu_t}{\sigma_{\omega}}) \frac{\partial \omega}{\partial x})$$
ここで各モデル定数は下記で表せます。
$$C_{\omega 1} = \frac{5}{9}$$
$$C_{\omega 2} = \frac{3}{40}$$
$$ \beta^* = 0.09$$
$$ \sigma_k^* = 2.0$$
$$ \sigma_{\omega}^* = 2.0$$
$k-\omega$モデルは境界層の内側流れの計算に特化した手法です。
そのため、境界層外の流れの計算が苦手で、渦粘性係数$\nu_t$の特異点が出てしまいます。
そのため、$k-\varepsilon$モデルは境界層外に強くて、$k-\omega$モデルは境界層内に強いという一長一短のモデルとなっています。
SSTモデル
SST(Shear Stress Transport)モデルは、$k-\varepsilon$モデルと$k-\omega$モデルのハイブリッドモデルです。
$\varepsilon$と$\omega$を変換することがキーとなっており、ハイブリッド化した下記の$\omega$の輸送式を用います。
$$\frac{D \omega}{D t} = C_{\varepsilon 1} \frac{\omega}{k} P_k – \beta^* C_{\varepsilon 2} \omega^2 + \frac{\partial }{\partial x} ( (\nu + \frac{\nu_t}{\sigma^*}) \frac{\partial \omega}{\partial x}) + \frac{2 C_{\mu}}{\beta^* \sigma^*} (1 – F) \frac{1}{\omega} \frac{\partial k}{\partial x} \frac{\partial \omega}{\partial x}$$
右辺最後の項は交差拡散項と呼ばれ、拡散項の修正によって得られた項です。
モデル定数$C$は$k-\varepsilon$と$k-\omega$モデルの両方の定数を下記式で重み付けした値を使用します。
$$ C = F C_{\omega} + (1 – F) C_{\varepsilon} $$
$F$は$0$~$1$でブレンド率を設定します。$F=0$で$k-\varepsilon$モデル、$F=1$で$k-\omega$モデルになります。
おわりに
今回は乱流モデルについて解説しました。
$k-\varepsilon$モデルは、壁から遠い場所で制度が高い手法です。一方で$k-\omega$モデルは壁面付近で精度が高いです。そしてそれらをうまくブレンドして扱うのがSSTモデルです。
うまく扱えばSSTモデルが最も便利で有用な手法です。背景を理解してSSTモデルをうまく有効活用しましょう。
次回はLESモデルについて説明します。