今回から、流体力学の基本知識について説明していきます。
本サイトではCFDを主に扱っていますが、流体力学とCFDは少し異なります。
CFDはナビエ・ストークス方程式を離散化して計算を行うのに対し、流体力学は簡易化した計算式により特殊な条件の流体挙動を見る分野です。
そのため流体力学で扱う条件は、パイプ内の流れやタンクから流れ出る流体量などの限定的な条件になります。
つまり、CFDと流体力学は方向性が大きく異なるということです。
ただ、だからといって流体力学が現代で役に立たないわけではありません。流体に関する基本的な知識はいつの時代も役に立ちます。
そこで今回からの「流体力学 超入門」では、流体力学の分野からCFDにも活かせるような部分だけを抜粋して説明していきたいと思います。
流体の特徴について知っておくことで、CFDも円滑に行うことができるようになるでしょう。
また、今回の内容は【計算技術者検定 熱流体】の前知識にもなります。ぜひ入門として御覧ください。
流体とは?
物質の相には3種類あり、固体・液体・気体があります。(プラズマも含む場合がありますが、ここでは簡易的に3相とします)
流体とは、この中でも流れを作ることのできる液体と気体を指します。
液体も気体も流れが存在します。それらの動きを捉えるのが流体力学です。
ただ、これらの3つの相は完全に分けられているわけではありません。固体と液体の間に位置するゲルやゾルのような物質も流れがあります。
このように半固体の流体はレオロジー(流れ学)という分野で扱われます。
レオロジーは流体力学の発展に位置するため、ここでは詳細は説明しません。
レオロジーはまだまだ明らかになっていないことの多い分野です。流体は測定が難しいため、まだまだ発展途上なのです。
分子と流体
固体・液体・気体の3つについて分子の観点から見てみましょう。
全ての物質は原子から成り立っています。その原子が組み合わさったものが分子です。
固体は、分子が結合したものです。分子が簡単に動かないため、流れが発生しません。
液体と気体は、分子同士が結合しておらず、自由に動き回れる状態です。そのため、なにか力を与えると流れが発生します。
つまり、流体とは分子が動く状態と言い換えることも出来ます。
分子の密度は粘性に大きく関わってきます。
液体より気体のほうが流れやすい(=粘性が低い)のは、分子がスカスカで衝突が起きにくいからです。
圧力
流体力学を学ぶ上で、圧力は重要な要素です。
流体が分子の集まりと理解できれば、流体による圧力も理解しやすくなります。
流体の圧力とはつまり、分子の衝突です。
空気中にも多くの分子があるため大気圧が存在します。風船内に気体を押し込むと、多くの分子が無理やり押し込まれるために膨張します。
大気圧を測る試験としては、水銀の到達高さを測る試験が有名です。大気に押されて水銀が真空の試験管内を上昇します。
温度を上げると空気が膨張するのも、分子が活発になって周囲との衝突が増えたことが原因です。
圧縮性
流体は、圧力が高いと圧縮する性質があります。
密度により圧縮のしやすさが大きく異なり、液体は密度が高いので圧縮しにくく、気体は圧縮しやすいです。
気体のピストンは圧縮できて、油圧のピストンは圧縮されないことからも直感的に理解できるでしょう。
流体力学やCFDでは、圧縮性を考慮するかどうかで計算の容易さが大きく異なります。そのため、圧縮性が小さい場合は流体を非圧縮として表すのが一般的です。
そのため、ほとんどの液体は非圧縮性流体として計算されます。
高速な条件では流体の圧縮が起きるため、空気中でマッハ数がMa=0.3以上の場合は圧縮性を考慮した計算が必要となります。
マッハ数Ma=1が音速であるため、音速の1/3だと空気の圧縮が起きます。そのため、戦闘機などの周りの空気の流れを調べる場合は圧縮性を考慮した計算が必要です。
粘性
流体の特徴を表す物性値が粘性です。粘性は流体の粘り気や動きやすさを表します。
粘性が少し変わると、大きく流れが変わります。気体よりも液体のほうが粘性が高く、液体の中でも水より油のほうが粘性が高いです。
粘性は流体の特徴として非常に重要な要素なのですが、計算が難しいです。
粘性とはつまり、分子が周囲の分子と衝突して、速度が周囲に伝わる現象を表しています。つまり、分子の運動量が周囲に広がるということです。
粘性は時間の経過とともに周りの運動量を平均化し、静止した壁の付近だと特にそれが顕著です。
つまり、時間変化が大きく関わってくるため、簡易化が困難です。
CFDでは粘性も考慮しますが、流体力学のような手計算では扱いきれません。そのため、流体力学では粘性のない「完全流体」として扱われます。
非ニュートン流体
流体力学では流体を粘性のない完全流体として扱いますが、粘性は非常に重要な要素なので、種類だけでも理解しておきましょう。
一般的な流体(空気、水や油など)はニュートン流体と呼ばれます。
ニュートン流体はせん断速度とせん断応力が比例する(粘性が一定)という特徴があります。
イメージとしては、局所的に速度差が大きいほど周りの流体を大きく巻き込むような感じです。川の流れでも速度の速いところの周囲ではなだらかに速度変化があり、直感どおりだと思います。
それに対して、せん断速度とせん断応力が比例しない流体を非ニュートン流体と呼びます。
非ニュートン流体もせん断速度に応じてせん断応力が上昇するのはニュートン流体と同じですが、その傾きが少し変わります。
せん断とともに柔らかくなりやすい特徴をチキソトロピー性といい、ペンキなどはこの特徴があります。チキソトロピー性はせん断をかけると柔らかくなることからシアシニング流体(shear-thinning)とも呼ばれます。
逆にせん断とともに固くなりやすいものはダイラタンシー性といい、水溶き片栗粉やコンクリートはこの特徴があります。ダイラタンシー流体はせん断をかけると固くなるのでシアシックニング流体(shear-thickening)とも呼ばれます。
非ニュートン流体は高分子を含む場合がほとんどで、ニュートン流体に比べて複雑な組成をしています。そのため、CFDですらまだまだ特徴をつかむのが難しい分野です。
流体で扱う式
流体の特徴を理解できたところで、流体力学で扱う式について触れていきましょう。
計算対象を3次元の圧縮性流体として考えると、計算で求めたいパラメータは下記のとおりです。
- x方向速度
- y方向速度
- z方向速度
- 圧力
- 密度
それに対して、流体で扱う式は下記の3種になります。運動方程式が3次元なので、計5つの式です。
- 連続の式
- 運動方程式(xyz方向)
- エネルギー保存則
流体だと直感的にわかりにくいかもしれませんが、上記の3つの式は物理で扱う固体の式と対応しています。
- 質量保存則(流体:連続の式)
- $F=ma$(流体:運動方程式)
- $\frac{1}{2}mv^2 +mgh =const$ (流体:エネルギー保存則)
おわりに
今回は、流体の基本的な特徴と計算式について紹介しました。
今回紹介した特徴は下記のとおりです。
- 流体と分子運動
- 大気圧
- 圧縮性
- 粘性(ニュートン流体、非ニュートン流体)
- 流体の方程式
前半の特徴はCFDにおいても非常に重要です。
何を簡略化しているかをしっかりと把握しておくことで、流体力学やCFDをツールとして上手く扱うことができるようになります。
特に流体力学は、いかに省略して簡易的なモデルにするかが重要です。流体に関わる変数の全体像を頭の中に持っておきましょう。
次回は、今回紹介した流体方程式を踏まえて静止流体の計算について紹介します。