はじめて格子ボルツマン法を学ぶ初心者のための講座、第11回になります。
格子ボルツマン法は歴史が浅いこともあり、まだ情報が少ないのが正直なところです。そこで、本サイトでは、ゼロからでも理解できるように丁寧に進めていくようにします。数学的な部分も極力簡単にするので、ぜひ最後までついてきていただけると幸いです。
全く知識のない人でも一応理解できるように説明しますが、可能であればナビエストークス方程式やほかのCFD(流体解析)の手法を知っておくとベターです。
前回は 特殊な壁面境界条件であるインターポレイテッドバウンスバック について説明しました。下記からどうぞ。
今回は、格子ボルツマン法の無次元化と有次元化について紹介します。
無次元と有次元
一般的な時間tや距離xといった物理量には、t[s]やx[m]などの単位があります。
これらの物理量に対して、$\frac{t}{\Delta t}$や $\frac{x}{\Delta x}$ などのように、同次元の参照量で割ることで単位をなくすことができます。
このように単位のない値のことを「無次元量」と呼び、物性値のような有次元の値を無次元の値に変換することを「無次元化」と呼びます。
無次元化は、流体力学の分野では非常に重要です。
無次元化することで、再現試験のやりにくいジェット機の流れや煙の流れを可視化することができるようになります。
ここでは無次元化の基本から説明したいと思います。
レイノルズ則
流体には「レイノルズ数が同じなら同じ流れの結果が得られる」というレイノルズ則があります。
レイノルズ数は下記で表されます。
$$ Re = \frac{U L}{\nu} $$
$U[m/s]$は代表速さ、$L[m]$は代表長さ、$\nu [m^2/s]$は動粘度です。
レイノルズ数は無次元量であり、速さ・長さ・動粘度の比で流れが決まることがわかります。
もう少し詳しく言うと、速度が2倍で大きさが2倍、粘度が4倍なら同じ流れの結果が得られるということです。
格子ボルツマン法と無次元量
さて、格子ボルツマン法に話を戻しましょう。
格子ボルツマン法は1回の時間ステップで隣の格子点に仮想粒子が移動する必要があるため、$\Delta x = x \Delta t$となっています。
今までのBGKモデルなどの説明でも$\Delta x = 1$で、$\Delta t = 1$として書いてきたように、格子ボルツマン法は無次元化された式を使用します。
つまり、分布関数$f$も密度$\rho$も時間$t$も速度$u$も距離$x$も全て無次元量だったということです。
有次元に戻す場合は、下記のように変換する必要があります。
$$ f^d = \rho_0 f $$
$$ \rho^d = \rho_0 \rho $$
$$ t^d = t_0 t = \frac{L}{U} t$$
$$ u^d = U u $$
$$ x^d = L x $$
ここで、$\rho_0$は代表密度、$L$は代表長さ、$U$は代表速度です。
有次元化
格子ボルツマン法が無次元化されているということは、現実世界の物性値も入力することができないということになります。もちろん出力も同じです。
では、現実世界の値を入力として使用したい場合はどうすればよいのでしょうか?
格子ボルツマン法を全て有次元化するのは無謀なので、入力値を有次元から無次元に変換してやることで、簡単に有次元量を扱うことができるようになります。
格子ボルツマン法について絶対に必要な入力値は、長さと流入速度と動粘度です。
流入条件は、有次元な流速$u_x^d$、 $u_y^d$ を無次元に変換する式は下記になります。
$$ u_x = U u_x^d $$
$$ u_y = U u_y^d $$
代表速度Uは、安定範囲に応じて決めます。
動粘度も同様に、下記の式で無次元化できます。
$$ \nu = \frac{\Delta t}{\Delta x^2} \nu^d $$
これらの式を使うことで、有次元な入力値を使用して格子ボルツマン法シミュレーションを行うことができます。
出力は逆の操作を行うことで、有次元の値で結果を見ることもできます。
つまり、格子ボルツマン法のプログラムはそのままで、前後に無次元の変換プログラムを追加するだけで、有次元化した計算が行えるということになります。
おわりに
今回は、格子ボルツマン法の有次元化について説明しました。
ナビエストークス方程式では無次元化するのが一般的ですが、格子ボルツマン法は粒子移動の定義により無次元化したものを使用するのが基本です。
有次元化というのは慣れてないため少し難しいですが、無次元化の理論さえ理解していれば要領は一緒です。従来のナビエストークス方程式に関する書籍のほうが詳しく書いているので、そちらで詳しく調べると良いでしょう。
次回は非ニュートン性流体について説明します。