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状態空間モデル(State Space Model)の解説

1. はじめに

状態空間モデル(State Space Model, SSM)は、観測されたデータから背後にある「状態」を推定するための強力なツールです。特に、時間的な依存関係を持つデータや、観測値にノイズが含まれるデータに対して有効です。状態空間モデルは、多くの物理現象や経済、工学の分野で用いられ、例えば、天気予報や株価の予測、ロボットの位置推定などに活用されています。

この記事では、初心者にも理解しやすいように、状態空間モデルの基本的な理論を解説し、数式を使いながらその仕組みを説明します。また、物理的な応用例も紹介し、状態空間モデルがどのように利用されているのかについて理解を深めます。

2. 状態空間モデルとは?

2.1 状態とは?

「状態」とは、システムの内部の隠れた変数であり、直接観測できないものを指します。例えば、気温や株価などの観測データにはノイズが含まれており、観測された値そのものが真の状態を正確に反映しているわけではありません。この「真の状態」を推定するのが、状態空間モデルの役割です。

状態空間モデルは、状態観測値の2つのプロセスから成り立ちます。

  • 状態プロセス: システムが時間の経過とともにどのように変化するかを記述する。
  • 観測プロセス: 状態がどのように観測されるか、つまり、観測値が状態にどのように依存しているかを記述する。

2.2 状態空間モデルの基本構造

状態空間モデルは、次の2つの式から構成されます。

  1. 状態方程式(State Equation) 状態の遷移を記述する方程式です。現在の状態$X_t$が前の状態$X_{t-1}$と、外部からの入力やノイズによってどのように変化するかを表します。 $$
    X_t = F_t X_{t-1} + G_t u_t + w_t
    $$ ここで、
  • $X_t$ は時刻$t$における状態ベクトル、
  • $F_t$ は状態遷移行列(システムがどのように進化するかを決める行列)、
  • $G_t$ は制御行列(入力変数$u_t$の影響を示す行列)、
  • $u_t$ は外部からの入力(制御変数)、
  • $w_t$ はプロセスノイズ(システムに影響を与えるランダムな要因)です。
  1. 観測方程式(Observation Equation) 観測値$Y_t$が状態$X_t$からどのように生成されるかを記述する方程式です。観測されるデータが状態に基づくものであることを示しています。 $$
    Y_t = H_t X_t + v_t
    $$ ここで、
  • $Y_t$ は時刻$t$における観測ベクトル、
  • $H_t$ は観測行列(状態が観測にどのように影響を与えるかを決める行列)、
  • $v_t$ は観測ノイズ(観測に含まれる誤差)です。

この2つの方程式が、システムの状態と観測値の関係をモデル化しています。

2.3 状態空間モデルの特徴

  • ノイズを扱う能力: 観測値や状態にノイズが含まれている場合でも、モデルが適切に機能します。
  • 時間依存性: 時間の経過とともに変化するデータに対して有効です。時系列データやダイナミックシステムの解析に広く用いられます。
  • 予測可能性: 将来の状態や観測値を予測するための手法としても利用できます。

3. 状態空間モデルの数理的基礎

3.1 状態方程式と観測方程式の詳細

状態方程式

状態方程式は、システムの動的な進化を記述します。例えば、物理学での運動方程式は、この状態方程式に対応します。システムの現在の状態は、前の状態とノイズによって決定されます。

$$
X_t = F_t X_{t-1} + w_t
$$

ここで、$w_t$はプロセスノイズであり、通常は平均0、分散$Q_t$の正規分布に従うと仮定されます。

$$
w_t \sim N(0, Q_t)
$$

観測方程式

観測方程式は、状態$X_t$が観測値$Y_t$にどのように影響するかを示しています。観測値は状態に基づいて生成されますが、ノイズ$v_t$が含まれるため、完全な観測はできません。

$$
Y_t = H_t X_t + v_t
$$

ここで、$v_t$は観測ノイズであり、通常は平均0、分散$R_t$の正規分布に従うと仮定されます。

$$
v_t \sim N(0, R_t)
$$

3.2 カルマンフィルタ

状態空間モデルの推定において、最もよく使われる手法の一つがカルマンフィルタです。カルマンフィルタは、連続的に変化するシステムの状態をノイズの影響下でも高精度に推定するためのアルゴリズムです。

カルマンフィルタは、以下のような更新手続きを繰り返すことで、状態$X_t$を推定します。

  1. 予測ステップ: 現在の状態を元に、次の時刻$t$における状態の予測を行います。 $$
    \hat{X}t^- = F_t \hat{X}{t-1}
    $$
  2. 更新ステップ: 観測データ$Y_t$を基に、予測された状態$\hat{X}_t^-$を更新します。 $$
    \hat{X}_t = \hat{X}_t^- + K_t (Y_t – H_t \hat{X}_t^-)
    $$ ここで、$K_t$はカルマンゲインと呼ばれる係数で、状態と観測の信頼性に基づいて適切に更新を行います。

カルマンフィルタは、リアルタイムでデータを処理する必要がある場面や、ノイズの多いシステムに対して特に効果的です。

4. 状態空間モデルの物理的応用

4.1 物理現象への応用例

状態空間モデルは、様々な物理現象のモデリングに応用されています。以下にいくつかの例を紹介します。

4.1.1 天体の軌道予測

惑星や人工衛星の軌道を予測するために、状態空間モデルは利用されます。軌道データは観測値として取得されますが、観測にはノイズが含まれるため、カルマンフィルタなどの手法で真の軌道(状態)を推定します。例えば、惑星探査機の位置推定や、GPSシステムにおける位置推定にもこの技術が用いられます。

4.1.2 天気予報

天気予報は典型的なダイナミックシステムであり、時間の経過とともに気象データが変化します。状態空間モデルを使用することで、過去の観測データから大気の状態を推定し、未来の天気を予測することが可能です。風速、気圧、温度などのデータを統合して、より精度の高い予測を行います。

4.1.3 自動運転とロボティクス

自動運転車やロボットの位置推定においても、状態空間モデルが使用されます。車両のセンサー(GPS、カメラ、LIDARなど)から得られる観測データを基に、車両の現在の位置や速度を推定します。センサーにはノイズが含まれるため、カルマンフィルタなどを使って正確な状態推定を行います。

5. 状態空間モデルの限界と改善

5.1 線形性の限界

状態空間モデルは、基本的には線形システムに対して適用されることが多いですが、現実のシステムは非線形な場合が多々あります。そのため、非線形システムに対しては、拡張カルマンフィルタ(Extended Kalman Filter, EKF)パーティクルフィルタ(Particle Filter)といった非線形版の手法が使用されます。

5.2 高次元データへの対応

状態空間モデルは、次元が増えると計算量が増大し、リアルタイムでの処理が困難になることがあります。そのため、高次元データに対しては、データの次元を削減する手法や、並列処理を用いることが求められます。

6. まとめ

状態空間モデルは、動的なシステムを扱うための強力なツールであり、物理、工学、経済、さらには日常生活における多くの応用に使用されています。特に、時間依存性のあるデータやノイズが含まれる観測データに対して、状態空間モデルは正確な推定と予測を可能にします。

その基礎的な数式や理論を理解することで、システムの挙動をより深く理解でき、将来の予測や制御に役立つでしょう。