1. はじめに
強化学習(Reinforcement Learning, RL)は、機械学習の一分野であり、エージェントが環境と相互作用しながら最適な行動を学ぶ手法です。強化学習は、ゲームの戦略、ロボット制御、資源管理など、さまざまな分野で応用されています。この記事では、強化学習の基本的な理論とその応用例について解説します。
2. 強化学習の基本理論
2.1 強化学習の定義
強化学習は、次の要素から構成されています。
- エージェント(Agent):行動を選択し、学習する主体。
- 環境(Environment):エージェントが相互作用する対象。物理的な世界やシミュレーションなど。
- 状態(State):環境の現在の状況。エージェントが観測できる情報。
- 行動(Action):エージェントが選択できる動作。
- 報酬(Reward):エージェントが行動を取った結果として受け取るフィードバック。数値で表現される。
強化学習の目標は、エージェントがどの行動を選択するかを最適化し、累積報酬を最大化することです。
2.2 マルコフ決定過程(MDP)
強化学習は、マルコフ決定過程(Markov Decision Process, MDP)に基づいています。MDPは、以下の要素から構成されます。
- 状態集合(State space, $S$):環境のすべての可能な状態の集合。
- 行動集合(Action space, $A$):エージェントが選択できるすべての行動の集合。
- 遷移確率(Transition probability, $P$):状態$s$で行動$a$を選択したときに次の状態$s’$に移る確率。
- 報酬関数(Reward function, $R$):行動に対する報酬を定義する関数。
MDPの特徴は、現在の状態と行動が次の状態と報酬を決定するというマルコフ性です。これは、現在の状態が将来の状態に関するすべての情報を持っていることを意味します。
$$
P(s_{t+1} | s_t, a_t) = P(s_{t+1} | s_1, a_1, \ldots, s_t, a_t)
$$
2.3 価値関数と方策
強化学習では、価値関数(Value function)を用いてエージェントの行動を評価します。価値関数は、ある状態からスタートしたときに得られる累積報酬の期待値を表します。
状態価値関数(State Value Function)
状態$s$での価値関数$V(s)$は次のように定義されます:
$$
V(s) = \mathbb{E} \left[ \sum_{t=0}^{\infty} \gamma^t r_{t+1} \mid s_0 = s \right]
$$
ここで、
- $r_{t+1}$は時刻$t+1$で得られる報酬。
- $\gamma$は割引率(Discount factor)で、未来の報酬の価値をどの程度重視するかを決定します。
行動価値関数(Action Value Function)
行動価値関数$Q(s, a)$は、状態$s$で行動$a$を選択したときに得られる報酬の期待値を示します。
$$
Q(s, a) = \mathbb{E} \left[ \sum_{t=0}^{\infty} \gamma^t r_{t+1} \mid s_0 = s, a_0 = a \right]
$$
2.4 方策と探索
方策(Policy)は、状態に対する行動の選択ルールです。方策は、確率的(確率で行動を選ぶ)または決定的(常に特定の行動を選ぶ)です。強化学習の目的は、最適方策$\pi^*$を見つけることです。
強化学習には探索(Exploration)と活用(Exploitation)という二つの戦略があります。探索は新しい行動を試すこと、活用は既知の最適な行動を選択することを指します。バランスを取ることが重要です。
3. 強化学習のアルゴリズム
強化学習のアルゴリズムは大きく3つに分類できます。
3.1 価値ベース法
価値ベース法は、価値関数を用いて方策を最適化するアプローチです。代表的なアルゴリズムには、Q学習とSARSAがあります。
Q学習
Q学習(Q-Learning)は、行動価値関数$Q(s, a)$を学習し、最適な方策を見つける手法です。更新則は次のように定義されます:
$$
Q(s_t, a_t) \leftarrow Q(s_t, a_t) + \alpha \left[ r_{t+1} + \gamma \max_a Q(s_{t+1}, a) – Q(s_t, a_t) \right]
$$
ここで、$\alpha$は学習率(Learning rate)で、新しい情報をどの程度反映させるかを決定します。
SARSA
SARSA(State-Action-Reward-State-Action)は、Q学習に似ていますが、次の行動を実際に選択したものに基づいて更新します。
$$
Q(s_t, a_t) \leftarrow Q(s_t, a_t) + \alpha \left[ r_{t+1} + \gamma Q(s_{t+1}, a_{t+1}) – Q(s_t, a_t) \right]
$$
3.2 方策勾配法
方策勾配法(Policy Gradient Method)は、方策を直接最適化する手法です。方策のパラメータを更新するための勾配を計算し、その勾配に基づいて方策を更新します。方策の期待される報酬を最大化することを目的とします。
3.3 アクタークリティック法
アクタークリティック法(Actor-Critic Method)は、価値ベース法と方策勾配法を組み合わせたアルゴリズムです。アクターが方策を更新し、クリティックが価値関数を評価します。この方法は、安定性と効率性の両方を持つことが知られています。
4. 強化学習の応用例
強化学習は、多くの分野で応用されています。以下にいくつかの具体例を紹介します。
4.1 ゲーム
強化学習は、囲碁やチェスなどのゲームにおいて驚異的な成果を上げています。例えば、GoogleのDeepMindが開発したAlphaGoは、囲碁のプロ棋士を打ち負かしました。この成功は、強化学習アルゴリズムの効率性と強力な探索戦略に基づいています。
4.2 ロボティクス
ロボットの制御においても強化学習は重要な役割を果たしています。ロボットが環境の中で自己学習し、目的を達成するための行動を最適化することができます。たとえば、自律的に移動するロボットが障害物を避けながら目的地に到達するための学習を行うケースです。
4.3 自動運転
自動運転車の制御にも強化学習が用いられています。車両がリアルタイムで環境を分析し、最適な行動を選択するために強化学習を利用することで、事故を回避したり、効率的なルートを選んだりすることが可能になります。
4.4 医療
医療分野でも強化学習の応
用が進んでいます。例えば、治療方針の最適化や薬の投与量を決定するための支援に利用されています。患者の状態を考慮しながら、最適な治療を行うための学習が行われています。
5. 結論
強化学習は、エージェントが環境と相互作用しながら最適な行動を学ぶ手法であり、様々な分野での応用が期待されています。基本理論を理解することで、今後の発展や新たな応用の可能性を広げることができます。今後も強化学習の研究は進展し続け、より複雑な問題に対する解決策が提供されることでしょう。