今回は、ダニエル・カーネマンの新著である「NOISE」について解説します。
ダニエル・カーネマンといえば「ファストアンドスロー」で有名な行動経済学の祖です。「ファストアンドスロー」はバイアスに関する著書であり、影響を受けた多くの書籍が出版されました。
今回は、バイアスの本ではありません。むしろ、バイアスと比べてノイズ(説明できないばらつき)が無視されがちなので、ノイズにもちゃんと着目するよう警鐘を鳴らすために、ノイズについて深掘した本です。
ノイズは多い
ノイズは私達の生活のあらゆるところに存在します。裁判の刑の重さは裁判官に最も依存し、保険金額は担当者に依存します。当たり前で受け入れてしまってるかもしれませんが、サービスや行政に個人差があるのは好ましくありません。
それに、多くの場合で予測にもノイズが発生します。そのため、多くのエンジニアが見積もりを間違ってしまうことになります。
例えば、経営者もノイズにまみれた独自の判断を好みます。これは、確証バイアスによるものです。確証バイアスにより上手く行ったものだけを見てしまうため、実際の成功率が見えなくなってしまいます。また、上手く行ったときの喜びがあるので、多少精度が悪くても直感を使ってしまうことになります。
人事もノイズの温床です。最近日系企業でも増えてきた360度評価は、労力の割に個人間のレベルノイズが多くなります。また、高い評価をつけて好かれたいなどという戦略的な評価もありえます。利害関係をなくした強制的ランク付けをしたところで、部署間の能力の密を無視してしまうためどこかの部署が損をすることになります。
他にも、採用なんかはわかりやすくノイズまみれです。面接をしたところで53%程度の確率でしか良い人を取れないことがわかっており、第一印象がほぼすべてを決めるといわれています。これは、面接者が第一印象に応じて質問項目を決めるからです。第一印象で好印象なら、入社してもらうために企業を売り込んでしまうのです。
ノイズを避ける
ノイズを無くす一番良い方法は、プロセスの妥当性を考えることです。やり方が論理的であるか、過去に上手く行ったかなどを考えることで一気に現実な予測が可能になります。
あとは、平均化がノイズを減らす最も良い手段になります。
時間をとってもう一度判断して平均化することでノイズを減らせます。人は直前の行動により判断が鈍るので、一度の判断では別のノイズを受けることになります。そのため、何かと比較するなど基準値を持つと判断が正確になりやすいです。
他にも、多くの人の平均をとることでもノイズを減らすことができます。ただ、人が増えても互いの意見が聞ける場合は周りの意見の影響を受けるため、ノイズが大きくなります。そのため、群衆の判断は当てになりません。会議でも社会的にノイズが入り、意見の厳しいほうに傾きやすくなります。
ノイズ対処の現場
医療現場では、ノイズを減らすために重みに応じて点数付けしたガイドラインがあります。ガイドラインに沿っていくことで、特徴的な印象を逃さなかったり、また個人的な経験に基づいて過剰に何かを重視することも避けられます。
特にノイズ対策していることで有名なのはgoogleでしょう。googleの面接では、評価項目を細かく分け、第一印象に引きずられる項目(人当たりなど)は排除されます。項目の評価では、事例と行動だけを聞きます。そして判断は全ての情報が集まってから「googleに合うかどうか」を各担当が話し合います。
このような構造化面接は無機質で面接者も嫌がりますが、最も将来の出来と相関することがわかっています。評価が目的であれば、ある程度無機質な面接をするしかないのです。
ノイズを減らすルール
ノイズを排除するには、下記が重要です。
- 個人の色を出さない(他の人ならどうするか)
- 統計的手法を取り入れる
- 判断を要素分割して、多面的な要素から判断する(可能なら担当を分ける)
- 早い段階での直感を避ける
- 相対的な尺度を使う
個人の色を出さない(他の人ならどうするか)
他人の意見として考えることで、個人的な経験に基づいた判断をしにくくなります。特に会社の同僚の意見などを想像すれば、会社の利益を考えるだけの思考の余裕もできるでしょう。
統計的手法を取り入れる
平均化はだれでもできるお手軽なノイズ削減手法です。ただし、母集団をどこに取るかはきちんと選ぶ必要があります。
判断を要素分割して、多面的な要素から判断する(可能なら担当を分ける)
人間は大きな情報を判断できません。細かい情報に分けることで、それぞれの判断が可能となります。
例えば、コストや時間の見積もりを行う際に、要素分割することで現実的な見積もりが可能となります。また、一部に引きずられないようにGoogleのように担当を分けることも有効です。
早い段階での直感を避ける
面接で最も引っ張られるのが第一印象でした。このように、人は直感にどうしても引っ張られがちです。それを理解した上で、直感を避けるように考えるようにしましょう。
例えば、事前に決めた判断基準のリストを使うことで、全ての情報が揃ってから判断するように意識しやすくなります。
相対的な尺度を使う
何もない状態だと、環境の影響によるノイズを受けやすいです。例えば、M-1グランプリなどで順番を意識するのは前後の芸人を判断基準として使えるからです。
全てを同じ土俵で比較したいなら、なにか具体的な指標を使ったり、基準に比べてどうかを判断すべきです。心理テストなんかでも質問が抽象的すぎると再現性のない結果になるおそれがあるため、ある程度具体的な質問を用意するほうが好ましいです。
ノイズのメリット
ここまではノイズはデメリットであるとして紹介してきましたが、ノイズを受け入れるメリットもあります。
それは、ノイズは価値観の変化などの柔軟性を入れられるということです。がんじがらめのルールを作ると抜け道が出来てしまうし、クリエイティビティも下げてしまいます。一方で柔軟性があれば、時代とともに変化する組織が作れます。さらに、判断という裁量によるモチベーション向上も期待できます。
おわりに
ダニエル・カーネマンの「NOISE」についてざっくりと解説しました。
バイアスだけでなく、ノイズによっても人間は誤った判断を下します。それは平均化や基準を定めることで対処でき、難しい作業はありません。
しかし、つい確信バイアスや第一印象で引っ張られて過ちを犯してしまいます。そして、それに我々は気づきません。
まず第一歩は、ノイズに気づくことです。そして、今回紹介した簡単な対処をどれか行ってみましょう。第三者視点に立つだけでも結構ノイズを防げるものです。
あとは、ノイズを避けるためのルール化と、時代に合わせた柔軟なルール変更のメリットのバランスを取っていくことで、強いチームを作ることができるでしょう。
参考:NOISE : 組織はなぜ判断を誤るのか?