ここでは名著「銃・病原菌・鉄」について、2回に分けて要所要所をわかりやすくくだけた説明で紹介します。
人類史の名著、「銃・病原菌・鉄」について聞いたことがある人は多いでしょう。
元生物学者で地学的な知識まで身につけたジャレド・ダイアモンドが、すべての知識を総動員して先進国と新興国に分かれた原因について掘り下げた書籍です。
ざっくり言ってしませば、「銃・病原菌・鉄」によってヨーロッパが世界を統治することになった!という話なのですが、その理由こそが本編です。
食料生産、家畜化、冶金など様々な要因が絡み合っており、サピエンス全史のように一筋縄では行かない本書ですが、ここでは本筋がわかりやすいようにざっくり解説したいと思います。
本書の言葉を借りれば、「銃・病原菌・鉄」はヨーロッパが支配した直接的な要因でしかなく、ここで説明するのはその究極的な要因です。つまり、文明が発展する前まで遡って考える必要があります。
前篇は下記からどうぞ。
国家と宗教
ただ集団が大きくなれば経済発展するわけではありません。集団が大きくなると揉め事が増えて、復讐により破滅することもあります。
そのため、第三者により裁く制度が必要となります。
秦の始皇帝が唱えた「法治国家」そのものです。また、人が増えたら物々交換だけでは生活が安定しないので、再分配も行います。
じきに、国家や宗教を用いて、強い結びつきの集団ができるようになります。余剰食料や定住生活により多様な職業が生まることで、複雑な国家構造が可能となりました。
また、国家と宗教により安定している集団は、規模の小さな不安定な集団とは比べものにならない力を持ちます。前回紹介した余剰労働力により、科学や軍事にどんどん差が開いていくためです。
つまり規模の大きな集団は、上手く内部を統率できれば、規模の小さな集団を簡単に吸収できるようになります。
例えば、現代でもあるイスラム教は戒律の多い宗教ですが、逆に言えばルールが多くて秩序立つているといえます。
そのため、イスラム教さえ守ればその国の文化に習った生活が出来るのです。このように、宗教は他国と生活をすり合わせるために非常に役に立ちます。
なぜオーストラリアでは鉄が多いのに征服されたのか?
ここではじめの問いに戻ってみましょう。
数万年前から定住していたオーストラリア人が、数千年前に移住してきたヨーロッパ人に征服された理由は何でしょうか?
オーストラリアのほうが鉄資源が多いのに、石器を使っていた理由は何でしょうか?
まず、ニューギニアでは乾燥により高地でしか農業が出来なかったため、大規模な集団が出来なかったという特徴があります。
低地も高地も密林で覆われ、地形が複雑であるため、言語が異なる小規模グループで存在していました。
また、気候変動も大きく干ばつも起きやすいため、農業をしてもリスクがつきまといました。
つまり、農業をやるのが非常に難しい地域だったわけです。
オーストラリアでは農業は難しいため、狩猟採集民として少人数で移動しながら生活するほうが安全でした。
アボリジニは野原を焼くことでシダなどの生産性をあげたり、動物を狩ったりするほうが効率的に生活できたのです。
アボリジニは狩猟採集民として生活は豊かだったため、余剰労働力を道具や軍事力に割く必要はありませんでした。その結果として、アボリジニはヨーロッパ人が征服するまで大規模な集団はできませんでした。
結局オーストラリアは征服されたことにより、家畜もヨーロッパの似た地域から輸入され、病原菌も渡った結果、すべての文化が塗り替えられる結果となりました。
アメリカが旧世界に征服されたのはなぜか?
アメリカも同様に多くの国に征服される形となりました。この理由も今までの内容で説明できます。
一つは大型動物を飼っていたかどうかです。つまり、家畜化が進んでいなかったのが、征服される要因となりました。
アメリカでは大型動物が絶滅していたため、鳥や小動物しか家畜化されませんでした。
既に育てやすい家畜や植物がそもそも少なかったというのも影響しています。適した種がいなければ、わざわざ家畜化するという行為は行われないのです。
その結果、大型動物に動力や軍事的な活躍をさせることができず、争いに弱い地域となってしまったのです。
ネイティブアメリカでは馬に乗っているイメージがあるかもしれませんが、実際のところ軍馬もヨーロッパからもたらされたものであり、征服前のアメリカには軍事力はほぼありませんでした。
アメリカは農作もほとんど行われていませんでした。
これも集団が小さく、軍事力を持てなかった一つの要因です。ヨーロッパ人が征服したあとに家畜や作物を持ち込むと、土地が肥沃であったことから農作が急速に発展して今のような姿になりました。
アメリカ大陸が南北に長いのも植物が伝達しなかった原因です。とうもろこしが広がるまで、伝搬しやすい植物はありませんでした。そのため、南北に統合した集団ができにくかったのです。
そして、最も重要なのは病原菌です。征服前にアメリカに既にあったのは梅毒だけでした。これは家畜の有無に依存しており、大体の感染症は家畜からもたらされるものです。
家畜化が全く進んでいなかったアメリカでは、免疫はほとんど身についておらず、感染症を移されただけで負けてしまう結果となったのです。
技術発展
食料生産の違いにより、人口密度が変わり、分業が行われ、軍事技術が異なることとなりました。
集団化は軍事以外の技術も発展させ、急速な進化を遂げることとなります。例えば水車や風車や船舶、車輪の発明もヨーロッパでは行われ、織物など生産性がどんどん高まることとなりました。
さらに、集団が大きくなったヨーロッパでは政治も優れていました。様々な文化を含んだ帝国を作り、国教を定めることで一体化していました。今でもEUはキリスト教の集まりです。
またヨーロッパでは、文字により情報伝達も広がりました。
一方でアメリカでは血縁に基づく組織しかなく、文字も少数の人しか知りませんでした。そのため、少数民族での情報共有しかなく、非常に発展しにくい環境にあったのです。
環境が力関係をつくった
ではここらで今までの内容をまとめていきましょう。
ユーラシア大陸が支配したのは、下記の3つが決定的な要因でした。
- 定住が早かった
- 家畜化しやすかった
- 環境が周囲の地域と似ていて発明が伝達しやすかった
定住は農耕できる作物があるかとそれに適した環境であるかで決まります。
また、狩猟採集が難しければ難しいほど農耕に移りやすくなります。農耕により余剰労働を得られたので、より効率的な方法の検討に力をさけるようになりました。
家畜化は今では各地域で行われてますが、家畜に適した種を手に入れるのは非常に当たりの少ないギャンブルです。そのため、多くの地域では家畜種をもらってくるという方法を取りました。
最後の発明の伝搬についても、自力で作らず技術を貰ってくる方法をとっています。
どこかで発達した技術を共有することが急速な発展を生みます。
集団が大きくなることも、情報が伝達することも、余剰労働を発明に活かすという意味では同じ役割となるのです。
そして現代へ
これらの差が起こした侵略により、北アメリカでは90%の先住民が消え、現代でも主導は元ヨーロッパ人となっています。
ほんの少しの差が現代にここまで影響しているのです。
例えば、アフリカ大陸内でも、食料生産に適した種があり面積も広かった西アフリカの民が南アフリカを占領することとなりました。
一つの例外で言えば、中国があります。中国では統一国家だったので、支配者によって技術革新が妨げられることがありました。
強い国家を望む声はありますが、うまく統一できることは規制をコントロールできることも意味します。
一方でヨーロッパは分裂していたので、発展が早かったです。
ヨーロッパでは、一方で受け入れられない技術でも他で受け入れられました。バラバラであることが大きなメリットとなったのです。
現代では、資本主義というシステムが多くの国で取り入れられています。
資本主義の根本には、みんながバラバラで頑張れば急速に発展しやすくなるというアダム・スミスの思想があります。ヨーロッパがまとまりがなかったがゆえに発展したことと同じ方針で進んでいるのです。
また、インターネットで急速に発展したのも情報共有のおかげです。これも古来からの「技術の伝搬」にあたります。今と昔は一見大きく違うように見えますが、実はキーとなっている部分は同じとも言えます。
銃・病原菌・鉄では、ヨーロッパが世界を征服したことを歴史を遡って農耕民から考察しました。
では、現代でこれから起きることを過去の歴史から考察できるのではないでしょうか。また、未来は見えなくとも現代の構造をより理解する助けともなるでしょう。
おわりに
二回に渡って銃・病原菌・鉄について解説しました。
農耕・家畜・国家・地形など様々な要素が関わる支配関係によって現代は形作られています。
少しの環境の違いにより、信じられないほどの差がついているわけです。
歴史はただ知的好奇心を満たすだけではなく、様々な知見が得られます。
情報伝播も信条の統一も、現代ではまだまだ変化しています。これからの世の中の大きな変化も、過去の延長線です。
人類が大きな差を生み出したキーを知って、これからの時代を見通していく助けにしましょう。
この記事がその助けになれば幸いです。
参考:銃病原菌鉄 上 下